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  <title type="text">悔恨の小祠</title>
  <subtitle type="html">かいこん　ほこら</subtitle>
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  <updated>2009-04-20T16:52:18+09:00</updated>
  <author><name>折り鶴</name></author>
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    <published>2009-06-26T19:23:39+09:00</published> 
    <updated>2009-06-26T19:23:39+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>３４</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　なんと、今回の事件の発端となった例の五年前の玉突き事故の加害者が、自死を図ったというのである。<br />
　その男は刑務所にて服役中だったのだが、使用しているシーツを裂いたもので首を括っていたそうだ。<br />
　しかも話はそれだけでは終わらない。<br />
　加害者の遺体やその周囲は、成分のよくわからない粘液のようなもので汚れていたという。<br />
　男が死ぬ直前に話をした刑務官は、タヌキがどうのこうのと言っているのを聞いたそうだ。<br />
　過去、裁判において全く反省の色をみせなかった加害者の、突然の自殺。<br />
　今のところ遺書も見つかっていない。<br />
「そ、それって……」<br />
『ええ、ちょっと不可解でしょう？』<br />
　不可解どころの話ではないと高耶は思うのだが、直江は今後、自殺者が出ないよう様子をみるだけで、詳しく調査するつもりはないらしい。<br />
「いいのかよ」<br />
『ええ。たぶんもう、何も起きないでしょうから』<br />
　やはり"御狸様"はあの林にいて、町田の願いを叶えたのではないかと直江は思っているらしい。<br />
　だとしたら、加害者の命が消えた時点で復讐は成ったのだから、今後被害者が出ることはないだろう。<br />
　問題は、加害者の自殺を町田のせいだと考えたはる香が、相当ショックを受けているということだ。<br />
　そんなこと自分は全く望んでいなかった、加害者にも罪の重さを噛みしめながら寿命を全うして欲しかった、と泣いていたという。<br />
『彼女とは、しばらく連絡を取り合うつもりでいます』<br />
「そっか……」<br />
『そういえば、あなたにありがとうと伝えて欲しいと仰ってました』<br />
　夫の最期の時に、高耶が言ったという台詞を聞いて、驚いていたそうだ。<br />
　はる香は確かに夫にもっと生きていて欲しかったし、お互いの心の穴を埋め合いたいと思っていたから、それを伝えてくれた高耶にとても感謝している、と。<br />
「感謝なんて……」<br />
　自分ははる香に大しては一切何もしていない。たぶんこの先も、これ以上してあげられることはない。<br />
　しかも、唯一はる香の心に必要だった人間を、あの世へ送ったのは自分だというのに。<br />
　今更、町田を恨めしく思った。<br />
「息子や孫に置いていかれて苦しんだ人間が、一番大事な人を置いてっちゃ駄目だよな……」<br />
　その言葉に電話の向こうで直江も黙り込む。<br />
「人の苦しみも、《調伏》してあげられればいいのにな」<br />
『高耶さん……』<br />
　直江はすぐに、しかも迷いなく答えた。<br />
『大丈夫ですよ、高耶さん。はる香さんは死者達とは違う。何せ命があるのですから。生きている限り人は前に進めます。悲しみを乗り越える術をきっと手に入れる。彼女の痛みが永遠に続くことは絶対にありません。いつか必ず、癒される日が来る。必ず、報われる日が来る。私はそう信じています』<br />
「直江……」<br />
　それはとてもよく解る。けれど、はる香に何もしてやれない自分がものすごく不甲斐なく感じる。<br />
　自分は相手が死者で無いと、役に立たないチカラしか持ち合わせていない。<br />
　そう言うと、直江は諭すように言った。<br />
『以前にも言いましたが、私達に出来ることは、極力新たな痛みを生まないようにすることです』<br />
「そうだな……」<br />
　前に直江が言ったその言葉は、間違いなく高耶の中に息づいている。<br />
　だから町田に対してあんな風に言えたのだ。<br />
　直江と言葉を交わしていれば、はる香もきっと前を向ける日が来るだろう。言葉の中に誠実さを宿している男なのだ。<br />
　と、そこまで考えて、高耶は思わず赤面した。<br />
　心の中だけのこととはいえ、一瞬でも考えてしまった事がとても気恥ずかしくて、茶化したくなった。<br />
「当然、お前が事故なんて起こしたらシャレにもなんねーんだからな。常に安全運転を心がけろよ」<br />
　偉そうに言った後で、しまったと思った。<br />
　事故ったあなたに言われたくない、なんて嫌味な返事が頭に浮かんで、思わず身構えたが、<br />
『そうしたらまた、誘われてくれますか』<br />
　囁くように、そう言われた。<br />
　電話の向こうの直江の笑顔が眼に浮かんで、思わず高耶はげんなりした。<br />
「だから、野郎相手に何言ってんだよっ！」<br />
　そう言うと、らしくないほどの笑い声が電話口から聞こえてきた。<br />
「電話代がもったいねーから切るぞ！」<br />
　受話器に向かって怒鳴っていると、美弥の顔が台所から覗く。<br />
「おにいちゃーん、ごはんできたよー」<br />
「わかった、今行く」<br />
　まだ笑っている直江にもう一度怒ってから電話を切った。<br />
「随分楽しそうだったね？美弥のこと、何か言ってた？」<br />
「楽しくなんかねーっつーの。美弥、いいからあんな男のことはさっさと忘れなさい」<br />
　といいつつ、直江が喜んでもらえれば、と言っていた事を伝えてやる。<br />
　満面の笑みでこちらにやってきた美弥の姿をみて、ふっと気がついた。<br />
　突然に訪れる別れ。<br />
　美弥が突然事故にあう可能性がないとはいいきれないのだ。<br />
　もしくは自分が何かで命を落とす可能性もある。<br />
　美弥の頭に手をのせると、なあに、とまるで恋人に甘えるように高耶の体に抱きついてきた。<br />
（オレは、案外幸せな人間なのかもしれないな）<br />
　決して恵まれた境遇ではないと思っていたが。<br />
　高耶も美弥の肩に手を回すと、美弥はうれしそうににこっと笑った。<br />
　この笑顔をみると、自分の大切なものが何なのか、再確認できる。<br />
「腹、減ったな」<br />
「うん♪今日はしょうが焼きだよ！」<br />
<br />
　世界は広い。<br />
　高耶は直江達との出会いを通じて、少しずつ自分の世界を広げ始めているが、それでもまだ知らないことが山ほどある。<br />
　今更のように気付いた日常の幸福をかみ締めて、暖かな湯気の立ち上る食卓へと向かった。<br />
<br />
<br />
<br />
　　□　終わり　□]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/33</id>
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    <published>2009-06-26T19:22:34+09:00</published> 
    <updated>2009-06-26T19:22:34+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>３３</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　それから数日後、仰木家の玄関チャイムが鳴った。<br />
「おにいちゃーん、おねがーい」<br />
「はいはい」<br />
　夕食当番で忙しそうにしている美弥に言われてインターホンの受話器を取る。<br />
『お届けものでーす』<br />
　玄関の扉を開けて、女性の配達員に渡されたのはラッピングされた大きな箱だった。<br />
　言われるままハンコを押し、差出人を確認してギョッとなった。<br />
「げぇ……っ！」<br />
　直江からだ。しかも宛名は美弥となっている。<br />
　ありがとうございましたーっ、と去っていく配達員を見送ってから、このままどこかにやってしまってなかったことにしようか、などと迷っていると、廊下に美弥が顔を出した。<br />
「誰だった？あれ、なんの荷物？」<br />
　目を丸くして美弥は覗き込んでくる。<br />
　見られてしまったからにはしょうがない。渋々、箱を渡した。<br />
「わ、直江さんからだっ♪なんだろ……うわあぁ～～♪きれい、きれい♪すごいよ、おにーちゃん！！」<br />
　中には色とりどりの花で作られた大きな花束が収まっていた。<br />
「すごいよ！！美弥、男の人からお花もらったの初めてだよ～♪♪」<br />
「こ、こら、美弥！そんなにはしゃぐのはやめなさい！」<br />
　浮かれる美弥を必死に諌めていると、まるでその様子を見ていたかのようなタイミングで電話が鳴った。<br />
　なんだか嫌な予感がしてダッシュで受話器を取る。<br />
『そろそろ届いた頃かと思いまして』<br />
　花束の贈り主は開口一番そう言った。<br />
「何なんだよっ、あの花っ！」<br />
『綺麗でしょう。"アネモネ"というんですよ』　<br />
「そんなこと聞いてるんじゃねえよ！大体、なんで美弥宛てなんだよっ！」<br />
『あなた宛てにするとさっさと捨てられてしまうと思ったからです。何ですか、妬いてるんですか』<br />
「誰がっ……誰にだよっ！」<br />
　美弥が、かわってかわってと隣で騒いでいる。<br />
　その声が聞こえたのか、喜んでもらえたら嬉しい、と直江が伝えてきたが、高耶は大事な妹を男の毒牙にかけたくないとばかりに、あっちに行ってなさい、と追い払った。<br />
　美弥は頬を膨らませながら夕食の支度に戻っていく。<br />
　落ち着いたところを見計らって、直江は喋り始めた。<br />
『アネモネの花ことばを知っていますか?』<br />
「花ことば？」<br />
『ええ。白いアネモネには"真心"という意味があるそうなんです』<br />
　直江ははる香に聞いたのだと言った。<br />
『その話がどうしても気になって、色々と調べてみたんです。<br />
　アネモネの代表的な花ことばは、叶わない期待や希望、一時的な愛情といったものらしいんですが、確かに白いアネモネには"真実の心"という意味も込められているようですね』<br />
「へぇ……」<br />
　正直、花は好きでも、花ことばなどは気にしたこともない高耶は、微妙な相槌しか打てなかった。<br />
　しかし直江は気にしない風に後を続ける。<br />
『私は"アネモネ"という名前の語源がギリシャ語の"風"にあり、咲き終わった後すぐに風に散ってしまうところに由来している、というのを何かで読んだことがあったんです。随分とさみしい名前だと思っていました。ところが、綿毛のついた種子を風によって飛散させるところからついた、という説の方が有力みたいなんですね』<br />
　花の存在自体を始めて知ったような高耶にはちょっと想像しにくかったが、脳裏にはタンポポの白い綿毛が浮かんでいた。<br />
『私はそれが、まるで種子が人の"真実の心"を運んでくれているようだと思いました。辿り着いた先で、また新たな芽を出して花を咲かせる』<br />
　そしてその花が散ればまた新たな場所を目指して、風にのる。<br />
　花が散って全てが終わり、ではないのだ。種子と共に人の心が永久にサイクルし続ける。<br />
　それはアネモネの話だけにとどまらず、生命の全てにいえることかもしれない。　<br />
『そう思うと決してさみしいものではないと思いませんか』<br />
　高耶は浩二や町田の姿を思い浮かべた。自分が彼らから貰った想い。自分が彼らに託した想い。<br />
　それは、悲しいものではなく、希望のあるものになっただろうか。<br />
「そうだな……」<br />
　素直に相槌を打ってしまった後で、なんだかロマンチック過ぎてまるで恋人同士の会話のようだと思った。<br />
　慌てて話題を他に振る。<br />
「そ、そういや昨日、留美子さんに電話しといた」<br />
『ああ、浩二さんのこと、報告したんですね。どうでした？』<br />
「………泣いてたよ」<br />
　直江が留美子に報告する予定だったのだが、高耶が浩二に約束したのは自分だから、どうしても自分で話したいと言うので任せてあったのだ。<br />
「想い続けるって気持ちには変わりがないってさ。浩二さんとの夢は決して忘れるつもりはないって。けど、ちゃんと新しい夢も探すようにするって言ってた」<br />
『そうですか……。道男さんの想いが報われるといいですね』<br />
「ああ……」<br />
　泣いてはいたものの留美子の声はしっかりしていて、高耶は安心したのだ。<br />
　ひとつ間違えば留美子も町田と同じように、変えることの出来ない過去に囚われてしまっていたかもしれない。<br />
　浩二のお陰で留美子は救われた。きっと彼女は道男と新たな夢をみることが出来るだろう。<br />
『私も昨日、はる香さんに報告をしたんですが、その際にちょっと妙な話を聞きまして………』<br />
「なんだよ、今度はキツネでもでたか？」<br />
『それがですね………』<br />
　はる香から聞いた話は驚くべきものだった。]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <published>2009-06-19T19:26:42+09:00</published> 
    <updated>2009-06-19T19:26:42+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>３２</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「あなたがこうすべきだと判断したのなら、私は従うまでです。むやみに反対したりはしない。そんなに私が信用できませんか」<br />
「……そんなんじゃない」<br />
「私のいないところで、あなたの身に何かあったら……」<br />
　高耶が直江を見ると、その顔が苦しげに歪んでいた。<br />
「もう二度とあなたを失いたくないんです」<br />
「直江……」<br />
「あなたは自分の身を第一に考えろと言ったって、聞く人ではありません。簡単に自らを投げ出してしまう。だから、あなたのことは私が護ると決めたんです。あなたが何ものかを護るというのなら、それ以上の強さで私があなたを護る。だから、無茶をしたいのならば、私の手の届くところにしてもらえませんか」<br />
　あまりにも真剣な表情で端からみれば脅しているようにも見える程だったが、高耶はまるで懇願されているような印象を覚えた。<br />
「オレは、お前に護られるつもりはない」<br />
「それでも構いません。私が勝手に護ります」<br />
「………ッ」<br />
　高耶がどう言ったって、直江の心は少しも揺れないらしい。人の気も知らないで、となんだか怒りすら覚える。<br />
「そうやって……オレはお前に怪我させるのか？霊と戦う度に？」<br />
「……高耶さん」<br />
「いつか怪我だけじゃあすまなくなるかもしれない」<br />
　もし、自分のせいで直江が命を落とすようなことになったら……。<br />
　そんなのは高耶はたまらないと思う。<br />
　一瞬黙った直江は、再び口をひらいた。<br />
「命は……かけがえの無いものです。尊いものです。けれど私にはそれとは別にとてもつもなく重要なことがあります。それがあなたを護ることなんです」<br />
　高耶は自分の心臓を握り締められたかと思った。<br />
「宿体を護ることに囚われて、あなたを護れないような間抜けな男にはなりたくありません」<br />
　そんな風に言われても全然嬉しくない、と必死に思い込む。甘えたい心を必死に抑え込む。<br />
「命を投げ出してもいいってゆーのか……ッ」<br />
「いいえ、投げ出すつもりもありません。かけがえのないものだと言ったでしょう？それにあなたを護る為にもやはりこの身体は必要なんです」<br />
　直江の目はひどく真剣に光っている。<br />
「優先順位を誤りたくないということです」<br />
　暫く黙っていた高耶は不意に直江の瞳を探るように見つめた。　<br />
「お前は俺の……景虎のために生きているのか」<br />
　今度は直江が身体を強張らせる番だった。<br />
　重い沈黙がふたりに圧し掛かる。<br />
　何も答えない直江に、高耶は言った。<br />
「わかった、もうきかねーよ」<br />
　高耶は大きくため息をついた。<br />
「もう、もう怒んなよ……」  <br />
　こういう雰囲気は苦手だ。<br />
「あなたに怒っているわけではないんです」<br />
　そんな高耶に直江は目を伏せてから、車の外に視線を移した。<br />
「自分を許せなかったんです。あなたの行動くらい、すぐに解って当然だったはずなのに」<br />
　それを聞いて高耶がどうせオレは短絡的だよ、と口を尖らせると、車内の空気が少し和らいだ。<br />
　直江の発する雰囲気も、いつの間にか普段の直江のものに戻っている。<br />
　高耶は今ならずっと引っかかっていた事を聞ける気がした。<br />
「なぁ、直江」<br />
「はい」<br />
「なんで俺を誘ったんだ、今回。ほんとは霊査の訓練なんて、嘘だったんだろ」<br />
　最初の安曇野の事を言いたかった。<br />
「嘘ではありませんが……」<br />
　直江は急な話題に目を丸くして言葉を探している。<br />
「疑わしい事故だったのは本当です。ただあなたを誘った理由は」<br />
　さらりと言った。<br />
「どうしても蕎麦が食べたかったからですよ」<br />
　さすがに一人では予約が取りにくかったもので、と言う直江を、高耶は、まじかよ、と見つめた。<br />
「冗談です」<br />
「てめぇなあ……」<br />
　呆れ顔の高耶に直江は今度こそ真剣な顔で告げる。<br />
「あなたの笑顔が見たかったからですよ」<br />
　一瞬、言葉に詰まった高耶だったが、からかわれたと思ったのか、力いっぱい怒鳴り返した。　<br />
「野郎の顔見て喜んでんじゃねーよっ！」<br />
　それを聞いた直江は、やっと笑顔を見せた。]]> 
    </content>
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/31</id>
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    <published>2009-06-19T19:26:22+09:00</published> 
    <updated>2009-06-19T19:26:22+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>３１</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　高耶は心も身体もすっかり軽くなって、とても気分がよかった。<br />
　自分の中に残っていた彼らの感情も、《調伏》とともに消え去っていた。<br />
　自分なりに彼らを救えたことが高耶には嬉しかった。<br />
　けれど、傍らの直江は先程から何も言わない。<br />
　怒ってるのか厳しい表情のままだ。<br />
　そんなことは初めてで高耶は少々戸惑っていた。<br />
　一応、事の次第を話して聞かせた。浩二の想いも、町田の最期も、自分の調伏のことも。<br />
　なのに相槌すら殆どないまま、高耶の家に着いてしまった。<br />
　車を停めて、直江は降りろとも言わない。<br />
　一体どんな表情をしているのか確かめるのが怖くて、眼もあわせずに、<br />
「じゃあな」<br />
　とだけ言って降りかけたところで、急に直江の左手が高耶の腕を掴んだ。<br />
　驚いて振り返る高耶を強引に引き寄せると、そのまま助手席のシートに押し付けてくる。<br />
「何だよ」<br />
　直江の顔が間近に迫っていた。<br />
　怒っているかと思った直江は、以外にも無表情に近かった。<br />
　逆に、何を考えているのかわからない眼が怖くて、反射的に睨み付ける。<br />
「こんな無茶をして、褒めてもらえるとでも思ったのですか」<br />
　腕を掴む力が、指が食い込むほどに強くなった。<br />
「痛ぇっ……」<br />
　抜け出そうともがいてみたが、腕力では敵わない。<br />
　なんだか本当にいつもの直江じゃない。<br />
「そんなガキみたいなこと考えるかよっ。お前だって言っただろ、《調伏》されたほうが幸せかもしれないって。俺もそう思ったから……ッ」<br />
「確かに言いました。けれど、思うところがあるのなら話して欲しいとも言いました。何故私に黙って事を急いたりしたんです。長秀が連絡して来なかったら、今頃どうなっていたことか……」<br />
「………」<br />
　確かにそうだ。高耶は意図的に直江を無視したことを自分でもよく解っていた。<br />
　相談なんて出来ない。頼ることは許されない……。<br />
　直江が怒ることはとっくに解っていた気がする。<br />
　自分は一体どうして直江だけは駄目だと思うのだろう。千秋になら、よかったのに……。<br />
　直江の瞳から視線を逸らした。<br />
「悪かったよ、勝手に動いたりして」<br />
「……心からそう思ってますか？」<br />
「ああ」<br />
　高耶は証明して見せるかのように強張った身体の力を抜いて、シートに身を預けた。<br />
　それを見て、直江はやっと腕を離した。]]> 
    </content>
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/30</id>
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    <published>2009-06-19T19:25:53+09:00</published> 
    <updated>2009-06-19T19:25:53+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>３０</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　ふたりのやりとりを静かに見守っていた千秋は、高耶の肩をポンと叩いた。<br />
「引導、渡してやれよ」<br />
　高耶もうなずく。<br />
　立ち上がると印を結んだ。<br />
　だが、なんだか感覚が先程と違う。<br />
「のうまく……さまんだ、ぼだなん、ばいしらまんだら……や？」<br />
　あれほどスムーズに出てきた真言も思い出すだけで精一杯だ。<br />
「あれ…？」<br />
「お前なあ……」<br />
  千秋はガクッとずっこけた。　<br />
「ったく、しょーがねーなー」<br />
　高耶を押しのけるようにして町田の前に立つと、千秋はビシっと印を結んだ。<br />
「のうまくさまんだ　ぼだなん　ばいしらまんだやそわか！」<br />
　外縛はしない。町田は観念したように手を合わせている。<br />
「南無刀八毘沙門天！　悪鬼征伐！　我に御力与えたまえ!」<br />
　目に痛いほどの真白い光が千秋の手の中で輝いた。<br />
<br />
「《調伏》！！」<br />
<br />
　町田の霊魂は抗うことなく消えていった<span class="line">───</span>。<br />
　これですべてが終わった。<br />
　合掌を解いた千秋の横で、高耶は大きくため息をついた。<br />
　できる限りのことはやった。<br />
　「景虎」だったらもっといい形で送ってやれたのかもしれないが、今の自分にしては上出来だ。<br />
（俺は俺であればいいんだろう？）<br />
　自分のやり方を貫けたと思う。<br />
　けれど、そのやり方に不満を抱く人間がすぐ隣にいた。<br />
<br />
　ゲシッ<br />
<br />
「いってぇぇ！何すんだっ！」<br />
　千秋のケリが高耶の尻に見事にヒットした。<br />
「あほっ！何すんだはこっちのセリフじゃっ！おめーは自由すぎんだよっ！大将だからって何でも許されると思ったら大間違いなんだからな、この女王気質が！」<br />
「なんだよっ女王って！」<br />
「るっせえ！このクイーンタイガーがっ！」<br />
　更に続けて千秋が説教（？）を始めようとしたところに、遠くの方からガサガサっと緑を押しのける音がした。不自然な木々の揺れがだんだんと近づいてくる。<br />
　まだ何かいたのか、とふたりとも思わず身構えたところへ、黒い塊が飛び出してきた。<br />
「景虎様……！」<br />
「直江！」<br />
　息を乱して現れたのは直江だった。<br />
　千秋がヒュウと口笛を吹く。<br />
「ほんとに来きやがった。つーかどんだけ飛ばしてきたんだよ」<br />
　あたりの木々や祠がつぶれている惨劇をみて唖然としていた直江は、高耶と目があうと駆け寄ってきた。<br />
「怪我はありませんか！」<br />
　肩口をつかんでゆすってくる。<br />
「あ、ああ。大丈夫だ」<br />
　直江はほっとため息はついたものの眉間の皺が消えない。<br />
「ちゃんと《調伏》も出来たし、心配するほどのモンじゃなかったって。なぁ千秋」<br />
「ぶわぁ～か虎。俺様がいたからなんとかなったんだろーが。たっぷり直江に絞ってもらえ」<br />
「げっ！逃げんのかよ！」<br />
　千秋はお先～と手をヒラヒラさせてさっさと帰ってしまった。<br />
「直江？」<br />
　先ほどから掴んだ肩を離そうとしない直江に高耶は声を掛ける。<br />
　気まずそうにしている高耶に気付いた直江は身体を離した。<br />
「……送ります」<br />
　高耶は無言で車へと戻る直江の後に続いた。]]> 
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            <name>折り鶴</name>
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    <published>2009-06-19T19:25:35+09:00</published> 
    <updated>2009-06-19T19:25:35+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>２９</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　息を整え、目を閉じた。<br />
（頼む………！）<br />
　何ものかに祈りを捧げつつ、思い浮かべたのは直江の姿だった。<br />
　初めて直江が調伏して見せたあのときの言葉と手の運びを、思い描きながら印を結ぶ。<br />
「のうまく ぼだなん……」<br />
　わずかに手ごたえを感じた。<br />
「景虎……！？」<br />
「……ばいしらまんだやそわか！」<br />
　その言葉では言い表せない感覚を逃さないように集中する。<br />
「南無刀八毘沙門天！　悪鬼征伐！　我に御力与えたまえ！」<br />
　掌のなかにまばゆい光が生まれる<span class="line">───</span>！<br />
<br />
「《調伏》！！！！」<br />
<br />
　高耶のその言葉で、大量の光が浩二を包み込んだ。<br />
　魂を押しつぶすような感触と浩二からの感謝の情が結んだ手に伝わってくる。<br />
（あんたの気持ちは絶対彼女に伝えるから……！）<br />
　高耶の誓いと共に、浩二の魂を包んだ光はあっという間に大気に溶けていった。<br />
（おわっ……た……）<br />
　思わず呆けそうになった高耶だったが、その余韻に浸る暇もなく、今度は千秋から怒声が飛んだ。<br />
　高耶は再び御狸と向き合う。<br />
　吐き出せる霊魂はもうないと見てとった千秋の容赦ない念攻撃で御狸はすっかりしぼんでいた。<br />
　毛が抜け落ち皮も剥がれ、背丈の小さい人の姿となっていた。<br />
　間違いなく町田であろうその霊は、ひどくやせ細って、骨ばった腕や足をぎくしゃくと動かしている。<br />
　御狸の正体は、タヌキの妖怪ではなく人霊がケモノの姿となったものだったのだ。<br />
　しかし、もう攻撃もしてこない。<br />
　哀れに這いつくばって地面を見つめ、時折咳き込みながらぶつぶつと何かつぶやいている。<br />
　よく聞くとそれは贖罪の言葉だった。<br />
　ズキン、とした痛みを胸に感じながら高耶は男の前に跪く。<br />
「町田サン」<br />
　あげた顔は、頬がげっそりとこけていて痛々しい。<br />
「気が済んだか」<br />
　町田の頬に涙がつたった。<br />
　不幸な人だと思う。不運とも呼びかえられる。<br />
　当然あると想定していた未来を他人の不注意によって奪われてしまったのだ。<br />
　だけど、こんなことをして一体誰の得になるというのだろう。<br />
「俺はまだ家族と死に別れたことねーし、本当の意味ではわかってやれねーよ、あんたの気持ち」<br />
　高耶はまっすぐに町田を見つめながら、昨夜眠れずにずっと考えていたことを伝えようと思った。<br />
「だけど、やっぱりあんたは不幸に負けちゃ駄目だったんだ。人為的なトラブルでも、起きちまったらもう過去は変えられない。どんなにつらくても、先を……未来をみるべきだった」<br />
　二度と変えることの出来ないものを見つめていても、不幸だし、行き詰まるだけだ。<br />
　しばらく視線を泳がせていた町田は、こう伝えてきた。<br />
<span class="line">───</span>息子夫婦や孫のいない未来にどんな意味があるのか。<br />
　町田の眼から更に涙が溢れ出した。その瞳はまるで見えるはずのない息子達の姿を見ているようだ。<br />
　高耶は語調を強くした。自分の言葉が町田に届くように願いながら。<br />
「いや、あんたには本当の未来のことなんてちっとも見えてなかったんだ。たぶん見ようともしていなかった。息子たちの死というアクシデントのフィルターを通してでしか物事を考えられなくなってたんだ。<br />
　たとえば、天災で息子たちがなくなったらどうだった？あんたは同じように自分を責め、こんなことをしでかしていたのか？どうしても納得のいかない、受け入れがたい事が起きて、感情を自分の中で処理しきれずに、あんたは自分で自分を責めることに逃げ込んだんだ。それじゃあ怒りに任せて無関係の事柄を呪うのとおんなじだ。あんたが本当にすべきだったことは、理不尽を自分や加害者に押し付けることじゃなかった。大事な人間のいなくなった現実をちゃんとみつめて、この先どう生きていくかをもっと考えるべきだった」<br />
　それは机上の空論かもしれない。いざその立場に立てば、終わりの見えない拷問のようなものかもしれない。逃げ出したくもなるだろう。<br />
「あんたが逃げたことを責めるつもりはない。あんただけが特別に弱いとも思ってない。誰にだって自分の足で立てなくなることはある。けどそうなったとき、あんたには一緒に支え合って立ち上がるべき人がいたんだろう？」<br />
　息子夫婦と孫が事故で死に、夫に先立たれ、残されたはる香は今、ひとりだ。<br />
「彼女をひとりにしたことこそがあんたの罪だと思う。そのことのほうをあんたは後悔すべきだ」<br />
　初めて町田の嗚咽がとまった。<br />
「……人は必ず死ぬんだ。どんな形であれ、必ず先に逝く者と残される者が生まれる。生き残った人間が死者を想うなら、死者の想いに報いることを考えなくちゃ駄目なんだ。死者が何を想っていたのかをなるべく正確に推し量って、そのことについて自分に出来ることがあるのかを考えなくちゃ駄目だ」<br />
　そこまで喋って、高耶は大きく息をついた。そして、今のは受け売りだけど、と付け足した。<br />
<span class="line">───</span>どうすればいい。もうとりかえしはつかない。<br />
　町田の表情は苦渋に満ちていた。<br />
　高耶は別にそんな顔をさせたかった訳じゃない。ただ無理やり《調伏》するんではなく、納得してこの世を去って欲しかったのだ。<br />
「そうだな……。あんたは死んだ。もうこの世で出来ることはない。あんたがこっちですべきだったことは、きっと奥さんが後を継いでやってくれる。今のあんたにできる唯一のことは、この世を旅立つことだ。<br />
　そしてあんたは生まれ変わって、次の人生こそ遣り残しの無いようにすればいい。運が良ければ、来世でまた息子達に会えるかもしれない。そしたら、今度こそ皆で一緒に過ごせるさ」<br />
　高耶の言葉は魔法のように町田の表情を穏やかにしていった。]]> 
    </content>
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/28</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kaikonnohokora.blog.shinobi.jp/%E6%82%94%E6%81%A8%E3%81%AE%E5%B0%8F%E7%A5%A0/%EF%BC%92%EF%BC%98" />
    <published>2009-06-13T00:36:14+09:00</published> 
    <updated>2009-06-13T00:36:14+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>２８</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　そんな千秋にはお構いなしで、高耶は粘液の霊を前に立っていた。<br />
「あんた、浩二さんだろ」<br />
　浩二は両膝を地面につけて泣いていた。<br />
　感情がひしひしと伝わってくる。<br />
「何をそんなに泣いてんだよ……」<br />
　誰も悪くはないのに。浩二も留美子も道男も誰も悪くないのに、何故不幸な道を行かなければならないのか。<br />
　呼びかけには答えない。ただひたすら空を見たまま涙を流している。<br />
「あんたに会いたがってる人がいるんだ」<br />
　浩二の涙は止まらない。やはりこちらを見すらしない。<br />
　高耶は集中した。思念派で伝える。<br />
《留美子って人から伝言があるんだ》<br />
　高耶は少し躊躇ってから、その言葉を告げた。<br />
《一生、あんたのことを想ってるって》<br />
　直江が留美子から頼まれた伝言はそれだった。<br />
　"一生、浩二のことを想ってる"。<br />
　留美子の決意だった。<br />
　子どもじみた夢はもう諦めて、一生をかけて浩二の心残りと向き合うつもりだという。<br />
《………》<br />
　初めて浩二がこちらをみた。<br />
　やはり言葉を紡ぐことはないが、口が何かを喋っている。必死の形相で高耶の方を見てくる。<br />
　しかし、やっぱり意志を伝える方法がわからないらしい。聴こえない。<br />
「それじゃわかんねーよ！！」<br />
　思念で伝えて欲しいと言ってみても、口をぱくぱくと動かすだけだ。<br />
　と、突然千秋が悲鳴をあげた。<br />
　御狸が最期の力を振り絞って立ち上がりかけている。千秋は念を打ち込んで更に霊力の削ぎ落としにかかる。<br />
「景虎っ！早くしろっ！」  <br />
「ちきしょっ！何言ってっかわかんねーんだよっ！」<br />
　高耶は思わず浩二の粘液の身体に触れた。<br />
　瞬間。<br />
　高耶の脳裏に鮮烈なイメージが浮かんだ。<br />
<br />
　咲き乱れる色とりどりの花々<br />
　小さな教会<br />
　純白のドレス<br />
　幸せそうな笑顔<br />
<br />
　ゴ　メ　ン　ネ　<br />
<br />
　高耶は目を見開いた。<br />
　イメージは止まらない。<br />
　次々と頭の中に溢れ出す。<br />
　どの場面でも、彼女は満面の笑みを浮かべていた。<br />
「それがあんたの伝えたかったことなのか……」<br />
　恋人を取られたことへの恨みでもなく、自分の命を奪った犯人への恨みでもなく、ただ彼女の夢を叶えてあげられなかった自分を責めていたのか。<br />
　独りにしてごめん。何もしてあげられなくてごめん。<br />
　きっと君は夢を諦めてしまうだろう、俺のせいで。<br />
　でも、それは嫌だ。<br />
　いつまでも君には笑顔でいて欲しいから。<br />
<br />
　ネ　ガ　イ　ヲ　カ　ナ　エ　テ<br />
<br />
「分かった……伝えるから……ッ！」<br />
　高耶がそう叫ぶと、浩二は必死の形相を崩して、初めて安堵の表情を浮かべた。<br />
　すると身体が溶けるように崩れ始め、粘液の塊へと戻っていく。<br />
　心残りがなくなったからだろう。しかし粘液に憑着したままでは浄化できない。<br />
　彼を解放するには、《調伏》しかない。<br />
　決断の時だ。<br />
　高耶は調伏を決意した。]]> 
    </content>
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/27</id>
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    <published>2009-06-13T00:35:50+09:00</published> 
    <updated>2009-06-13T00:35:50+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>２７</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　死体や人形を憑巫にする霊は見たことがあったが、こんな無形のものを選ぶとは。<br />
　お陰で、完全な人型にもなれずに、出来損ないのままうごめいている。<br />
<br />
<span class="line">───</span>ヴヴウォォォォゥゥ……<br />
<br />
　恐ろしげな苦悶の声が透明な粘土人形から漏れる。<br />
　御狸は霊魂を捕らえ、粘液に閉じ込めることによって操ることができるのだろう。<br />
　あの大きな腹の中で、たっぷりの粘液に浸った霊魂がギュウギュウ詰めになっている様子を想像して、千秋は胃がムカついてきた。<br />
　思わず眉間に皺を寄せて出来損ないの人形をみつめていると、溶けたような顔の両目らしき部分から、粘液が筋になってつたっている。<br />
　涙のようにみえた。<br />
「ひでえ……」<br />
　意識があるのかもわからない。<br />
　まわりがどんな風にみえているのか。もしかしたら見えてすらいないかもしれないが、人ではないものになってしまったことを嘆いているようだった。<br />
　霊査するように探ってみると、彼らの声が千秋にも聞こえた。<br />
<br />
<span class="line">───</span>タスケテクレ……！<br />
<span class="line">───</span>ドウシタライインダ……！<br />
<br />
　思わず耳をふさぎたくなるような苦しげな叫び。<br />
　ズキズキと体の中心が傷んでたまらない気持ちになる。<br />
「千秋っ！！なんとかしてやってくれっ！！」<br />
　高耶が頭を抑えながら叫んでいた。<br />
「早く……っ！」<br />
　粘液の霊たちはそれでも攻撃をするつもりなのか、ずるずると未完成の身体を引き摺って千秋の方へ向かって来る。<br />
　肝心の御狸は口を大きく開けたまま、立ち上がれずにぐったりとしている。<br />
　心なしか身体の大きさがひとまわり小さくなっているように見えた。<br />
「本体が動いたら抑えてくれ！できるか？！」<br />
「やってみる……！」<br />
　先ほどの攻撃で自信をつけたのか、力強くうなずいた高耶に御狸を任せて、千秋は吐き出された霊魂に向き直ると印を結んだ。<br />
　それが霊魂である以上、《調伏》するしかない。<br />
「阿梨　那梨　ト那梨　阿那盧　那履　拘那履！！」<br />
　印を結びながら真言を唱えて、最期を通告する。<br />
「<span class="line">───</span>バイッ！！」<br />
　うねうねと動いていたモノがぴたりと動きをとめた、と思った瞬間、異次元へ入り込んだかのように掻き消え、後にはヌメっとした液体のみが残った。<br />
「バイッ！！」    <br />
　続けて高耶に向けて放たれた霊魂も、《調伏》する。<br />
　けれど、それをみた御狸は苦しげに身体を歪ませながら、立て続けに霊魂を吐き出し始めた。<br />
「千秋っ！」<br />
「わかってるよっ！！<span class="line">───</span>バイッ！！」<br />
　《調伏》しても、すぐにまた霊魂が吐き出される。<br />
「バイッ！！」<br />
　それの繰り返しとなった。<br />
　下手に念を放てば腹の中の無防備な霊魂を傷つけるということが解った高耶も手出しが出来ない。<br />
　御狸本体が隙を見て動き出そうとする度に、ぎこちない《外縛》で押さえ込む。<br />
　千秋の持久力と御狸の中の霊魂量の争いになった。<br />
　だが、吐き出す度に御狸の体積が明らかに小さくなっていっている。<br />
　十数体は《調伏》しただろうか。<br />
「ラストにしよーぜ……」<br />
　そろそろ集中力も切れてきた千秋は息を切らしながら言った。<br />
　御狸はすっかり小さくなっている。<br />
　それでもまだ、吐き出すモノが残っていたようだ。<br />
<br />
　ゴポボボオオォォッッ<br />
<br />
　吐き出された塊は千秋に向かって飛んだ後、失速して地面に落ち、またしても伸縮を始める。<br />
　千秋が《調伏》しようと印を結び始めたとき、高耶が叫んだ。<br />
「待ってくれ！」<br />
　その霊魂はその霊自体の霊力が強いせいか、人の姿を模ることが出来た。生前の姿がわかるほどだ。  <br />
　焼けた衣服、ただれた皮膚。若い男だ。<br />
「あんた……まさか……」<br />
　何を思ったか高耶は御狸の《外縛》を解いて、その若い男の霊の元に駆け寄った。<br />
「おいっ！景虎っ！」<br />
　放りだされた御狸を見て、ちっと舌打ちすると今度は千秋が本体に向き直る。<br />
　まったく無茶すぎる。ルールも何もあったもんじゃない。<br />
　あまりにも行動が以前の景虎とかけ離れている。<br />
　千秋は前もって段取りを決めておかなかったことを少し後悔していた。]]> 
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/26</id>
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    <published>2009-06-13T00:35:24+09:00</published> 
    <updated>2009-06-13T00:35:24+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>２６</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「くっ……」<br />
　腕を顔の前にかざして飛び交う砂利から身を守り、慌てて御狸を確認する。<br />
　敵は既に立ち上がれる状態ではなかった。左半身がほぼ全てモヤのような状態に戻っている。<br />
　苦しげに息をしながらそれでもなお、必死に起き上がろうとしていた。<br />
　千秋は思わずぞっとした。<br />
　それだけの念を放った高耶は息を乱すこともなく、《力》を使えたことが嬉しかったのか高揚感さえ窺える表情をしている。<br />
　何気なく放った一発がコレか。《力》だけでいえば以前の景虎より更に上を行っているような気がする。<br />
　いや、景虎であればきちんとパワーを抑えるような戦い方をしていたから、ちゃんと《力》がコントロールできていないということかもしれない。<br />
（成田譲も化け物だが……）<br />
　景虎も充分化け物だ。<br />
　異物でも見るように高耶を見つめていた千秋は、その高耶の表情に疑問の色が走ったのを見た。<br />
「！？」<br />
　御狸に目をやると、下顎がカクンとはずれて不自然にだらりとしている。<br />
　口内に透明のものがみるみるうちに溢れ出すのが見えた。<br />
「来るぞっ！！」<br />
　例の粘液だ。<br />
　霊はグボグボッと奇怪な音をだしながら、高耶に向かってそれを吐き出した。<br />
「っつ……！」<br />
　転がって避けた高耶のすぐ横に、べしゃっと落ちた。<br />
「まだ来るぞっ！」<br />
　油断するな、と声をかける。<br />
　浴びてどうなるものでもないが、帰りの車内のことを考えると出来る限り避けて欲しい。<br />
　御狸の粘液の滴る口には、再び透明なものが溜まっている。<br />
<br />
　ゴボボボオオオォォッ<br />
<br />
　ふたつめが、今度は千秋に向かって飛んでくる。<br />
　すかざず千秋はぱっと横に跳んだ。<br />
「同じ手は食わねーっつーの！！」<br />
　ズササァーっと着地した千秋は片膝をつきながら叫ぶと、憎きその塊を睨み付けた。<br />
　相変わらず鼻を突くような臭いがする。塊をよくよくみると、妙な凹凸がある。<br />
　目を凝らしてみて、息を呑んだ。<br />
「げえっ……！」<br />
「ちっ、ちあきっ！これって……！！」<br />
　高耶も自分へ向かって落ちたものを見て、頬を引き攣らせている。<br />
　なんと塊には顔があったのだ。<br />
　というより、粘液が人の顔や身体を形取ろうと伸縮している。<br />
「なんだ……これ……ッ！」<br />
　粘液に霊魂が憑着しているのだ。<br />
　土人形の兵隊ならぬ、粘液人形の兵隊のつもりか。]]> 
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    <id>kaikonnohokora.blog.shinobi.jp://entry/25</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kaikonnohokora.blog.shinobi.jp/%E6%82%94%E6%81%A8%E3%81%AE%E5%B0%8F%E7%A5%A0/%EF%BC%92%EF%BC%95" />
    <published>2009-06-13T00:34:58+09:00</published> 
    <updated>2009-06-13T00:34:58+09:00</updated> 
    <category term="悔恨の小祠" label="悔恨の小祠" />
    <title>２５</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　連日、快晴続きだ。<br />
　どうやら梅雨は明けたらしい。<br />
　放課後、例の崩れかけた祠の前にふたりの姿はあった。<br />
「で、どーする」<br />
　高耶は千秋の顔を窺った。<br />
「どーする、じゃねぇよ。お前が来るって言ったんだろうが。なんか考えがあんじゃねぇのかよ」<br />
「いや、特に」<br />
　はぁ、と千秋は大げさにため息をついた。<br />
（結局変わんねーのか）<br />
　そういう千秋にも大した考えは無い。<br />
「まあ、《調伏》するっきゃないでしょ」<br />
　直江であれば、用心して相手の動きを封じるような罠を張ったり、霊たちを個々にバラすような仕掛けを施したりするのかもしれないが、千秋はそういうまどろっこしいものは正直面倒臭い。<br />
「とりあえず、外に出して様子みてみるか」<br />
　祠の中には、じっと息を潜めている怪しい気配があった。<br />
　昨日は感じられなかったが、今日はわかる。<br />
　手負いの獣のように、今にも飛び出してきそうな殺気が溢れている。<br />
「最初は《外縛》が効かねぇと思う。ダメージ与えて弱ったところで《外縛》して《調伏》する」<br />
「わかった」<br />
　高耶の顔は相変わらず暗い。<br />
　ここまで来る車中で、はる香の話を聞かされたばかりだ。<br />
　彼らを開放したい、という気持ちはますます強くなっている。<br />
「お前はその扉を開けたら俺が声かけるまで、後ろに下がってろ。いいか、勝手に動くんじゃねーぞ」<br />
　高耶は素直に頷いた。<br />
　千秋は数歩下がると手を前に構えて、《力》を溜め始めた。<br />
「いつでもどーぞ」<br />
「じゃあ、開けるぞ」<br />
　高耶は大きく息をすって、取っ手に手をかける。<br />
　素早く、扉を開けた。<br />
　とたんに、大きな影が飛び出す……！<br />
<br />
　グウゥゥゥゥ<span class="line">───</span>！<br />
<br />
　うなり声のようなものを上げ、みるみる実体化したそれは、改めてみると確かに巨大なタヌキの化け物だ。　わき腹のあたりだけが実体化出来ずに黒いモヤのようになっている。<br />
　その傷跡の恨みとばかりに御狸は千秋に襲い掛かった。<br />
「く……っ……！」<br />
　護身波を張って振り下ろされる腕から身を守る。<br />
　が、踏ん張りきれずに後ろに転がった。<br />
「千秋っ！」<br />
　なおも追撃してくる御狸に、千秋は念を放った。<br />
　ギャッと声を上げて数歩後ろに下がったものの、ダメージは軽い。<br />
　その隙に体勢を立て直して反撃にそなえたが、突如、思わぬ方向に新たな《力》の気配を感じて、ぎょっと振り返った。<br />
　高耶が両手に使えないはずの《力》を溜め込み始めている。<br />
　みるみる溜まるそのチカラの大きさに千秋は思わず息を呑んだ。<br />
「待てっ！かげと<span class="line">───</span>a─」<br />
「どいてろっ！！千秋っ！！」<br />
　止める間もなく、高耶は念を放ってしまった。<br />
　手から離れた密度の高いエネルギーは一瞬のうちに尾をひいて御狸にぶつかり、破裂した。<br />
<br />
　グギャアアアアッッッ！！！<br />
<br />
　周りの木々ごと巨体が後ろに吹っ飛ぶ。<br />
  炸裂した際の突風が木々の破片やら砂利を巻き込み、次々に千秋や高耶まで襲った。]]> 
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