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かいこん ほこら
悔恨の小祠
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「あ、直江?」
 午後の授業が始まる前、千秋は校内に置かれている公衆電話の前にいた。
「んで、何か分かったか?」
 一応、新しい情報があったら聞いておこうと思ったのだ。 
 直江はちょうど、町田宅を出たところだった。
 はる香と話した内容を、ひと通り聞いた。
「願いを叶えるタヌキ、ねえ……」
 千秋は訝しげに言って、公衆電話をコツコツと指で叩いた。
「景虎の奴は複合霊って言ってたな」
『複合霊というより集合体なのかもしれない。これだけ私的な問題で外部からの介在(施術、修法など)があったとは考えにくいからな』
通常、複合霊は意図的に作られるものだ。自然発生は殆どない。
『景虎様の話だと20体はいるらしい。町田氏本人に意図がなくても強い負の思念に引かれて霊魂を引き寄せてしまったのかもしれない』
「だっからあんなにデブってた訳か」
 高耶があれほど影響されたのだ。念の強さは怨霊並みといえる。雑兵も何十体と集まればそれくらいの力を持てるだろう。
「自分を責めてた、ねぇ」
 一番に取り込まれちまいそうなのはお前だったんだな、と言おうかと思ったがやめた。
「目的が復讐じゃあ、迷惑なのに変わりねぇがな。どうすりゃいいかねぇ」
『《調伏》しかないだろう』
 邪気を纏った霊が何もせずとも浄化することはまずありえない。
 あの霊体は傷が回復次第すぐに人に危害を加え始めるだろう。
 負の感情を抱えてこの世に残った霊魂が行き着く先をふたりは数限りなく見てきた。
「ま、いーわ。授業が終わったら、もっかい行って来っから」
『いや、ひとりだと危険だ。明日、俺もそっちに戻るからその時に』
「それが大将が張り切っちゃってさ。行くって言ってきかないんだわ」
『何?』
「《力》も使えねーでどうするつもりなんだか。ま、お手並み拝見だな。オレも愛車(ハニー)の仇とってやりてーし。おかげさまでありゃあ当分くせぇままだぜ」
 車のシートに染み込んだ粘液は、それ自体はきれいに掃除できたものの、臭いだけはとれなかった。
 千秋は思い出すだけで腹が立つといった感じだ。
『馬鹿、お前までその気になってどうする。彼を止めろ』
「俺が言ったって聞くやつじゃねぇよ。大体たきつけたのはお前だろ。どうしても嫌ならお前が止めに来い」
 直江の反論がすぐに返ってきたが、聞かずにそのまま電話を切った。
 手をあごに当てて考える。
(御狸、ねぇ)
 普通に考えて、20体以上の霊を二人で相手にするのはかなり危険な事だ。
 だが別に千秋はあの霊を甘く見ているつもりは無い。
 本来の景虎ならば20体くらいひとりでも平気だろう。
 千秋は、高耶の昨日別れた時と先程の眼の輝きの違いを見てしまって、確かめずにはいられなくなってしまったのだ。
 あの景虎が、一体どんな手段に出てくるか。
(見せてみろよ)
 鼻で笑ってから、くるりと後ろを向いた。
 すると、1年の女子が数人遠巻きにこちらを見て、何やらヒソヒソとやっている。
 高耶が2年のちょっと怖い先輩ならば、千秋はクールでデキる先輩、だ。
 千秋は愛想良く彼女達に手を振ると、上がる歓声を背中に浴びながら教室へ戻った。
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