かいこん ほこら
悔恨の小祠
カーディガンにAラインスカートのぽっちゃりした女性と、少し色を抜いた短い髪に流行のタイプの眼鏡をかけた男性だ。
まったく気付かなかった。
直江も同様に、驚いた顔をしている。
「失礼ですけど、御遺族の方ですか」
話しかけてきた女性の手には白い花束が握られていた。
こんな時間、こんな場所へ来るのは、確かに遺族くらいなものかもしれない。
「ええ、まあ」
直江が返事を濁すと、女性は笑顔を浮かべて近づいてきた。
「私も1年程前に友人を事故で亡くしたんです。5年前のあの事故とは直接関係はないんですけど、現場がすぐ近くだったもので、よくこうして来させてもらってるんです」
高速道路じゃお花もお供えできないし、といって彼女は祠の前まで行くと、いつもそうしているのか慣れた手つきで扉を開けた。
中には、白木で彫られた仏像が置かれている。
細密とはいえないその丸みを帯びた造詣は、どこか素朴であたたかみがあった。
仏像というよりどこかしらの郷土神を思い起こさせる。
「遺族の方が造られたものです。ご存知ですか、町田さんって方」
仏像をしげしげと見つめる高耶を振り返って彼女は言った。
もちろん知らない高耶は首を振る。
「この祠も、実はその方のお手製なんですよ」
準備してきたらしいハサミで仏前花にしては華やかな花の茎を切りそろえると、先に供えられていた枯れ花と取り替えた。
「もしかして、1年前というと……」
呟くような直江の言葉で、高耶もはっと気付いた。
「火傷の霊の……?」
時期が重なる。彼女のいう友人とは、もしかして例の火傷の霊か?
火傷、という言葉を聞いて女性は過剰な反応を示した。
「もしかして、幽霊見物の方ですかッ……!」
「いや……あの、そうじゃなくって」
突然形相の変わった女性に、高耶は別に興味本位で来たのではないことを何とか説明しようと思ったが、それは彼女の言葉に遮られた。
「彼に、浩二に会ったんですかッ?!」
「え?」
「火傷をした幽霊と話をしたんですかッ?!」
彼女は不自然なほど必死だった。
「いや、オレは……」
「じゃ、じゃあ姿を見たりとか……?!」
「いや、それもないんだけど……」
「───そうですか……」
彼女はへたり込んでしまった。
「ル、ルミちゃん……」
ここへきて初めて言葉を発した男性は女性の元歩み寄った。
「やっぱり、もう会えないのかな……」
彼女はそう言うと顔を覆って泣き出してしまう。
男性は困った顔で励ますように背中を擦り始めた。
「まだわかんないよ。もうちょっとがんばってみようよ」
しばらくの沈黙の後、直江が聞いた。
「亡くなった御友人に会いにいらしたんですか?」
彼女はこくりと頷く。
「知り合いがここで彼に会ったって聞いて。わたし達、ずっと通ってるんです。でもまだ会えたことなくて………」
ぽろり、ぽろりと涙が落ちる。
「彼、火傷をしていたって……何かを必死に伝えようとしてたって……」
「ルミちゃん」
「心残りがあるってことだと思うんです。わたし、それが何なのかどうしても知りたくて……!」
とりあえず立ち上がろうと手を差し伸べる男性に、彼女はひとりになりたいと首を振った。
「ごめんね、ミッちゃん」
「───ん。わかった」
男性は手を引っ込めると、仕方なくといった感じで立ち上がる。
高耶と直江は顔を見合わせた。
とりあえず、"ルミちゃん"を残して、施設の方へ向かう"ミッちゃん"と一緒に移動することにした。
まったく気付かなかった。
直江も同様に、驚いた顔をしている。
「失礼ですけど、御遺族の方ですか」
話しかけてきた女性の手には白い花束が握られていた。
こんな時間、こんな場所へ来るのは、確かに遺族くらいなものかもしれない。
「ええ、まあ」
直江が返事を濁すと、女性は笑顔を浮かべて近づいてきた。
「私も1年程前に友人を事故で亡くしたんです。5年前のあの事故とは直接関係はないんですけど、現場がすぐ近くだったもので、よくこうして来させてもらってるんです」
高速道路じゃお花もお供えできないし、といって彼女は祠の前まで行くと、いつもそうしているのか慣れた手つきで扉を開けた。
中には、白木で彫られた仏像が置かれている。
細密とはいえないその丸みを帯びた造詣は、どこか素朴であたたかみがあった。
仏像というよりどこかしらの郷土神を思い起こさせる。
「遺族の方が造られたものです。ご存知ですか、町田さんって方」
仏像をしげしげと見つめる高耶を振り返って彼女は言った。
もちろん知らない高耶は首を振る。
「この祠も、実はその方のお手製なんですよ」
準備してきたらしいハサミで仏前花にしては華やかな花の茎を切りそろえると、先に供えられていた枯れ花と取り替えた。
「もしかして、1年前というと……」
呟くような直江の言葉で、高耶もはっと気付いた。
「火傷の霊の……?」
時期が重なる。彼女のいう友人とは、もしかして例の火傷の霊か?
火傷、という言葉を聞いて女性は過剰な反応を示した。
「もしかして、幽霊見物の方ですかッ……!」
「いや……あの、そうじゃなくって」
突然形相の変わった女性に、高耶は別に興味本位で来たのではないことを何とか説明しようと思ったが、それは彼女の言葉に遮られた。
「彼に、浩二に会ったんですかッ?!」
「え?」
「火傷をした幽霊と話をしたんですかッ?!」
彼女は不自然なほど必死だった。
「いや、オレは……」
「じゃ、じゃあ姿を見たりとか……?!」
「いや、それもないんだけど……」
「───そうですか……」
彼女はへたり込んでしまった。
「ル、ルミちゃん……」
ここへきて初めて言葉を発した男性は女性の元歩み寄った。
「やっぱり、もう会えないのかな……」
彼女はそう言うと顔を覆って泣き出してしまう。
男性は困った顔で励ますように背中を擦り始めた。
「まだわかんないよ。もうちょっとがんばってみようよ」
しばらくの沈黙の後、直江が聞いた。
「亡くなった御友人に会いにいらしたんですか?」
彼女はこくりと頷く。
「知り合いがここで彼に会ったって聞いて。わたし達、ずっと通ってるんです。でもまだ会えたことなくて………」
ぽろり、ぽろりと涙が落ちる。
「彼、火傷をしていたって……何かを必死に伝えようとしてたって……」
「ルミちゃん」
「心残りがあるってことだと思うんです。わたし、それが何なのかどうしても知りたくて……!」
とりあえず立ち上がろうと手を差し伸べる男性に、彼女はひとりになりたいと首を振った。
「ごめんね、ミッちゃん」
「───ん。わかった」
男性は手を引っ込めると、仕方なくといった感じで立ち上がる。
高耶と直江は顔を見合わせた。
とりあえず、"ルミちゃん"を残して、施設の方へ向かう"ミッちゃん"と一緒に移動することにした。
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悔恨の小祠