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かいこん ほこら
悔恨の小祠
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 車内にながれる日本古来からの伝統的な曲調は、確かに心が弾むという類のものではなかったけれど、直江が聴き入っているのがわかったから何も言わなかった。
 景虎の捜索にあたって、こんな些細な手がかりを頼っていただなんて高耶は知らなかった。
 本当に雲を掴むような話だったというのがよくわかる。
 曲の途中で直江はそっと言った。
「あなたの音色にはかないませんね」
 高耶はその言葉にどう答えればいいのかわからなかったが、横笛の音を聴いていて思い出したことがあった。
「そういえば俺、リコーダーだけは得意だったな」
 小学生の頃、音楽の教師にほめられた記憶がある。
 いつもだったら"だからといって自分は景虎ではない"と続けるところだがやめておいた。高耶なりに気を使ってみたのだが。
「技能教科は得意なんですねぇ」
「……何がいーたいんだよ」
 こっちの気も知らないでいつもの皮肉を言う直江はいつもの直江だ。
 音楽だってけっこう頭を使うんだぞ、と言い返そうとすると、ふと直江の表情が変わった。
「渋滞ですね」
 見ると前方にブレーキランプの長い列ができている。
 車は静かに止まった。
「こんなとこで?」
「めずらしいですね」
 松本インターまですぐのところだ。
 ハザードを点灯させた直江はCDからラジオに切り替えた。
 50メートル程前方に発炎筒の煙が上がっている。
 アナウンサーの声は事故情報を伝えてこない。まだ発生してから時間が経っていないせいだろう。
「つーか、こんなとこで事故るか、ふつー」
 車の流れは比較的速く、すぐに現場が見えてきた。
 どうやら乗用車の単独事故のようだ。
 壁に衝突して前方が無残にひしゃげた車体も見えた。
 本当に事故直後のなのか高速隊も到着していないようで、ぽつんと置かれた反射板の手前で車が一列に合流していく。
 これが渋滞の原因だったようだ。
「直江……あのふたり……!」
 高耶の指差す方向を見てみると、事故車両の脇に座り込んでいるカップルはついさっき見たばかりの顔だった。
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