かいこん ほこら
悔恨の小祠
道男と留美子だ。
直江は驚いて目を丸くする。
彼らの傍に車を横付けすると、降りて声をかけた。
「大丈夫ですか!?」
「た、たちばなさん……」
ふたりのそばに腰をおろして怪我の有無を聞くと、かすり傷程度だと返事が返ってきた。
留美子の額が少し切れていたが、確かにそれ以外に目立った外傷はないようだ。
「何でこんなことになったんだ」
「それが……急にアイツが飛び出してきて……」
「?こんなとこに動物でもいたのか」
「とりあえず、少し車から離れましょう」
何かの拍子で車が炎上しないとも限らない。車両から離れるのは事故後の鉄則だ。
道男の手を借りて立ち上がる留美子に、高耶は声をかけた。
「あんた、ほんとに大丈夫か」
額から流れる血の跡が痛々しい留美子はすっかり放心しきっていて、目の焦点があっていない。
その目が高耶を見た。
「……が」
「え?」
「浩二が……浩二が会いにきたの」
声が震えている。動揺した様子で道男の手を押しのけると、留美子は高耶にしがみついてきた。
「彼、何か言いながら……こっちに向かって、私に向かって手を……手を……ッ!」
「ル、ルミちゃん……」
道男もどうしていいのかわからないのか、すがる彼女を引き戻そうとする。
が、留美子の勢いは止まらない。
「間違いないのッ、身体が透きとおってて、声が出せないみたいで……」
高耶は思わず直江を仰ぎ見た。
直江は難しい顔で考え込んでいる。
もしかすると……。
浩二の霊は浄化した訳ではなく、力を蓄え怨霊化してしまったということだろうか。
何かを求めて、彷徨い始めたということだろうか。
「それは間違いなく、浩二さんでしたか?」
「間違いないですッ!間違えようがないんです……!」
「………」
恐れていた事態が起きたようだった。
無害だった浩二の霊魂は、想いを増幅させ、人的被害を出す霊になってしまったらしい。
事故を引き起こしたということは、留美子を向こうへ連れて行きたいのだろうか。
もしくはただ単に、事故を起こすことで、死者(なかま)を増やしたいのだろうか。
「彼、すごくつらそうな顔を……」
そういいながら留美子はまたしても顔を覆って泣き出してしまう。
何とか促して、車から少し離れた場所へ移動すると、やっと高速隊と救急車が到着した。
直江は驚いて目を丸くする。
彼らの傍に車を横付けすると、降りて声をかけた。
「大丈夫ですか!?」
「た、たちばなさん……」
ふたりのそばに腰をおろして怪我の有無を聞くと、かすり傷程度だと返事が返ってきた。
留美子の額が少し切れていたが、確かにそれ以外に目立った外傷はないようだ。
「何でこんなことになったんだ」
「それが……急にアイツが飛び出してきて……」
「?こんなとこに動物でもいたのか」
「とりあえず、少し車から離れましょう」
何かの拍子で車が炎上しないとも限らない。車両から離れるのは事故後の鉄則だ。
道男の手を借りて立ち上がる留美子に、高耶は声をかけた。
「あんた、ほんとに大丈夫か」
額から流れる血の跡が痛々しい留美子はすっかり放心しきっていて、目の焦点があっていない。
その目が高耶を見た。
「……が」
「え?」
「浩二が……浩二が会いにきたの」
声が震えている。動揺した様子で道男の手を押しのけると、留美子は高耶にしがみついてきた。
「彼、何か言いながら……こっちに向かって、私に向かって手を……手を……ッ!」
「ル、ルミちゃん……」
道男もどうしていいのかわからないのか、すがる彼女を引き戻そうとする。
が、留美子の勢いは止まらない。
「間違いないのッ、身体が透きとおってて、声が出せないみたいで……」
高耶は思わず直江を仰ぎ見た。
直江は難しい顔で考え込んでいる。
もしかすると……。
浩二の霊は浄化した訳ではなく、力を蓄え怨霊化してしまったということだろうか。
何かを求めて、彷徨い始めたということだろうか。
「それは間違いなく、浩二さんでしたか?」
「間違いないですッ!間違えようがないんです……!」
「………」
恐れていた事態が起きたようだった。
無害だった浩二の霊魂は、想いを増幅させ、人的被害を出す霊になってしまったらしい。
事故を引き起こしたということは、留美子を向こうへ連れて行きたいのだろうか。
もしくはただ単に、事故を起こすことで、死者(なかま)を増やしたいのだろうか。
「彼、すごくつらそうな顔を……」
そういいながら留美子はまたしても顔を覆って泣き出してしまう。
何とか促して、車から少し離れた場所へ移動すると、やっと高速隊と救急車が到着した。
PR
かいこん ほこら
悔恨の小祠