かいこん ほこら
悔恨の小祠
車が発進してからも高耶は黙ったままだった。
「大丈夫ですか?」
直江が声をかけても返事をしない。
こういうときの高耶が人と距離を置きたがっているのだということは、直江もわかり始めていた。
けれど、今回はそうもいかない。あの不気味な霊の正体に一番近いのは高耶だった。
話を聞かなければならない。
「まだ頭が痛みますか」
高耶はやはり何も答えない。
「一体、何が起きたんです。あの霊体の意識を読み取ろうとしたんですか」
しばらくの沈黙の後、高耶はやっと口を開いた。
「ぶつかった瞬間、勝手に流れ込んできたんだ」
心臓を掴まれたような息苦しさがまた襲ってきて、顔をしかめる。
「暗いことを考えてると言っていましたね。具体的にはどんなことを」
「何かを……責めてるみたいだった」
「恨みを抱いている、ということですか?」
「わかんねーけど、多分」
高速道路での事故で死んだ者たちなのだろうか。
唐突な死。中には全く非のないうちに終わりを迎えた者もいるだろう。恨みを抱いて当然だ。
限りない絶望感が高耶の身体の内に未だにこびりついている。
「いろんな霊が混じっていると言っていましたね。数はわかりますか」
「20くらい……かな」
「意識がバラバラに感じ取れたんですか」
「ああ、みんな好き勝手に喋ってる感じだった」
「それならば、複合霊というより集合体に近いものかもしれませんね」
霊体が癒着することなくただ寄り集まってひとつ形を作っているだけなのかもしれない。
ならばうまい具合にバラけさせて個々に《調伏》すればいいので、こちらの負担もずいぶん軽くなる。
直江は、そのための具体的な方法やどんな真言を用いるかなどを話し始めたが、高耶の相槌は殆ど得られない。
ちらり高耶の顔を窺った後で小さくため息をついた。
「長秀に言われたことを気にしているんですか」
「………」
邪気にあてられてしまったことを、千秋は"精神が弱い"と言った。
同じ状況にいた譲は全く平気だったのだから、反論の余地もない。
だが、直江の言うことは違っていた。
「今の話を聞いていて思ったんですが、譲さんの方が精神的に強いという訳ではないかもしれません」
心のどこかで期待していた慰めの言葉に、高耶は素直になれずにそっぽを向いた。
「別に、いいって。事実だろ」
「もしかしたら、あなたはあの霊たちに同調してしまったのかもしれない」
「同調?」
「彼らの持つ感情とあなたの感情が結びついてしまったということです。譲さんが平気だったのは、彼らの持つ感情と同じ種類のものを譲さんが持っていなかっただけかもしれない」
霊たちの持つ感情、この世への未練は全て同じという訳ではもちろんない。
恨み、怒りなどのマイナスのものもあれば、守護霊などの陽性のものもある。
つまり、譲と比べて高耶は人を恨みがましく思いがちだということか。
でも、あの譲と比べられたら誰も勝てないような気がする。
「今回のように一瞬同調しただけならば、あなたの中に残った彼らの感情もいずれ消えてしまうでしょう。苦しいかもしれませんが心配するほどのことではありません。ですが、万が一ガッチリと結びついてしまった場合、相手を取り込むか自分が取り込まれるか、です。一歩間違えればとても危険な状況にだったということですよ」
「……下手したら死んでたってことか」
「ええ。魂が取り込まれてしまった場合、肉体は死を迎えるしかありません。……まあ、もしあなたにそんな危険が迫ったとしても、私が絶対に食い止めますが」
高耶はため息をついた。
(何やってんだ、オレは)
口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ。
「大丈夫ですか?」
直江が声をかけても返事をしない。
こういうときの高耶が人と距離を置きたがっているのだということは、直江もわかり始めていた。
けれど、今回はそうもいかない。あの不気味な霊の正体に一番近いのは高耶だった。
話を聞かなければならない。
「まだ頭が痛みますか」
高耶はやはり何も答えない。
「一体、何が起きたんです。あの霊体の意識を読み取ろうとしたんですか」
しばらくの沈黙の後、高耶はやっと口を開いた。
「ぶつかった瞬間、勝手に流れ込んできたんだ」
心臓を掴まれたような息苦しさがまた襲ってきて、顔をしかめる。
「暗いことを考えてると言っていましたね。具体的にはどんなことを」
「何かを……責めてるみたいだった」
「恨みを抱いている、ということですか?」
「わかんねーけど、多分」
高速道路での事故で死んだ者たちなのだろうか。
唐突な死。中には全く非のないうちに終わりを迎えた者もいるだろう。恨みを抱いて当然だ。
限りない絶望感が高耶の身体の内に未だにこびりついている。
「いろんな霊が混じっていると言っていましたね。数はわかりますか」
「20くらい……かな」
「意識がバラバラに感じ取れたんですか」
「ああ、みんな好き勝手に喋ってる感じだった」
「それならば、複合霊というより集合体に近いものかもしれませんね」
霊体が癒着することなくただ寄り集まってひとつ形を作っているだけなのかもしれない。
ならばうまい具合にバラけさせて個々に《調伏》すればいいので、こちらの負担もずいぶん軽くなる。
直江は、そのための具体的な方法やどんな真言を用いるかなどを話し始めたが、高耶の相槌は殆ど得られない。
ちらり高耶の顔を窺った後で小さくため息をついた。
「長秀に言われたことを気にしているんですか」
「………」
邪気にあてられてしまったことを、千秋は"精神が弱い"と言った。
同じ状況にいた譲は全く平気だったのだから、反論の余地もない。
だが、直江の言うことは違っていた。
「今の話を聞いていて思ったんですが、譲さんの方が精神的に強いという訳ではないかもしれません」
心のどこかで期待していた慰めの言葉に、高耶は素直になれずにそっぽを向いた。
「別に、いいって。事実だろ」
「もしかしたら、あなたはあの霊たちに同調してしまったのかもしれない」
「同調?」
「彼らの持つ感情とあなたの感情が結びついてしまったということです。譲さんが平気だったのは、彼らの持つ感情と同じ種類のものを譲さんが持っていなかっただけかもしれない」
霊たちの持つ感情、この世への未練は全て同じという訳ではもちろんない。
恨み、怒りなどのマイナスのものもあれば、守護霊などの陽性のものもある。
つまり、譲と比べて高耶は人を恨みがましく思いがちだということか。
でも、あの譲と比べられたら誰も勝てないような気がする。
「今回のように一瞬同調しただけならば、あなたの中に残った彼らの感情もいずれ消えてしまうでしょう。苦しいかもしれませんが心配するほどのことではありません。ですが、万が一ガッチリと結びついてしまった場合、相手を取り込むか自分が取り込まれるか、です。一歩間違えればとても危険な状況にだったということですよ」
「……下手したら死んでたってことか」
「ええ。魂が取り込まれてしまった場合、肉体は死を迎えるしかありません。……まあ、もしあなたにそんな危険が迫ったとしても、私が絶対に食い止めますが」
高耶はため息をついた。
(何やってんだ、オレは)
口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ。
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悔恨の小祠