かいこん ほこら
悔恨の小祠
翌日早くに、直江は道男を通じて留美子と連絡を取った。
サービスエリアの祠を建てた人物、町田について聞くためである。
構造からして二つの祠は同じ人物の手によるものだと見込んだからだ。
もしあの雑木林に何度か通ったことのある人物なら、あの影に似た霊体を目撃している可能性も高い。
留美子は直江たちが今回の事故について調べることにしたと聞いて、喜んで協力を申し出てくれた。
なのだが。
『あの、町田さんは亡くなってるんです』
「ええ?」
思わず訊きかえした。
事故の遺族会の代表を務めたこともある町田なる人物は、もう既に亡くなっているのだという。病死だそうだ。
"はる香"という夫人が独りのこされて、都内に住んでいるらしい。
『あのサービスエリアへ何度も通ううちに、祠を建ててくださった方にもきちんとご挨拶をしたいと思うようになって、従業員の方に訊いてお家を訪ねたことがあったんです。そしたら町田さんがちょうど亡くなられたばかりの時で……。だから私もミッちゃんも、町田さんのご主人にはお会いしてないんです」
祠を建てたいきさつや何かは全て夫人に聞いたそうだ。
とりあえず、住所を教えてもらい訪ねてみることにした。
「その時に、あの祠をもうひとつ建てたという話は聞きませんでしたか?」
『え、もうひとつ?』
どうだろう、聞いてないと思うけど……としばらく考えをめぐらせている様子の留美子は、思い出したように言った。
『関係ないかもしれないですけど、あの祠の中の神様は何かの動物をモチーフにしたってはる香さんが仰ってました』
「動物」
『えっと……キツネだったか、タヌキだったか……』
留美子はしばらく悩んだが、答えは出せなかった。
それ以上の情報は無さそうだと踏んで直江は留美子に礼を言った。
私からもはる香さんに宜しく、という伝言を預かった後、電話を切ろうとしたが、
「あの……」
と小さい声が聞こえてもう一度受話器を耳にあてた。
「もうひとつだけ……」
彼女は躊躇った末に言った。
「もし、浩二に会うことが出来たら、伝えて欲しい事があるんです」
承諾すると、留美子は小さな声でその決意の言葉を話してくれた。直江は内心痛ましいと思ったが、それを口にすることは出来なかった。
教えてもらった住所には、小さな一軒家があった。
平屋建てのその家は古い造りではあったが、手入れがきちんとされているせいか明るい印象だ。
柵に囲まれた庭に色とりどりの花をつけた植木が所狭しとならんでいる。
それを横目に見ながら、直江は玄関のチャイムを押した。
すぐに返事が返ってきた。
「突然すみません。井川留美子さんから、町田さんのお宅はこちらだと伺いまして」
ドアを開けた女性は60代だろうか。上品な笑顔は家と同じく明るい印象だ。
「井川……?ああ、白いアネモネのお嬢さんね」
一瞬返事に詰まったが、確か留美子が祠に供えていた花が確かアネモネだったと思い返す。
「どういったご用件かしら」
「実は、高速道路における交通事故のことを色々と調べておりまして、ご主人が祠を建てたり5年前の事故の遺族会をやられた経緯について、是非お話をお伺いしたくて参ったんですが」
そう言って架空の雑誌社の名刺を渡す。
話をスムーズに聞く際の必殺技だ。名刺の種類で相手の態度を180度変えることが出来る。
「あら、そうですか。けど……残念ながら主人は先日」
「ええ、存じています。奥様がご存知の範囲内で構わないんですが」
「───わかりました。主人の残した写真がありますからそちらでよろしいかしら」
「助かります」
仏間で線香をあげた後、リビングに通された。
サービスエリアの祠を建てた人物、町田について聞くためである。
構造からして二つの祠は同じ人物の手によるものだと見込んだからだ。
もしあの雑木林に何度か通ったことのある人物なら、あの影に似た霊体を目撃している可能性も高い。
留美子は直江たちが今回の事故について調べることにしたと聞いて、喜んで協力を申し出てくれた。
なのだが。
『あの、町田さんは亡くなってるんです』
「ええ?」
思わず訊きかえした。
事故の遺族会の代表を務めたこともある町田なる人物は、もう既に亡くなっているのだという。病死だそうだ。
"はる香"という夫人が独りのこされて、都内に住んでいるらしい。
『あのサービスエリアへ何度も通ううちに、祠を建ててくださった方にもきちんとご挨拶をしたいと思うようになって、従業員の方に訊いてお家を訪ねたことがあったんです。そしたら町田さんがちょうど亡くなられたばかりの時で……。だから私もミッちゃんも、町田さんのご主人にはお会いしてないんです」
祠を建てたいきさつや何かは全て夫人に聞いたそうだ。
とりあえず、住所を教えてもらい訪ねてみることにした。
「その時に、あの祠をもうひとつ建てたという話は聞きませんでしたか?」
『え、もうひとつ?』
どうだろう、聞いてないと思うけど……としばらく考えをめぐらせている様子の留美子は、思い出したように言った。
『関係ないかもしれないですけど、あの祠の中の神様は何かの動物をモチーフにしたってはる香さんが仰ってました』
「動物」
『えっと……キツネだったか、タヌキだったか……』
留美子はしばらく悩んだが、答えは出せなかった。
それ以上の情報は無さそうだと踏んで直江は留美子に礼を言った。
私からもはる香さんに宜しく、という伝言を預かった後、電話を切ろうとしたが、
「あの……」
と小さい声が聞こえてもう一度受話器を耳にあてた。
「もうひとつだけ……」
彼女は躊躇った末に言った。
「もし、浩二に会うことが出来たら、伝えて欲しい事があるんです」
承諾すると、留美子は小さな声でその決意の言葉を話してくれた。直江は内心痛ましいと思ったが、それを口にすることは出来なかった。
教えてもらった住所には、小さな一軒家があった。
平屋建てのその家は古い造りではあったが、手入れがきちんとされているせいか明るい印象だ。
柵に囲まれた庭に色とりどりの花をつけた植木が所狭しとならんでいる。
それを横目に見ながら、直江は玄関のチャイムを押した。
すぐに返事が返ってきた。
「突然すみません。井川留美子さんから、町田さんのお宅はこちらだと伺いまして」
ドアを開けた女性は60代だろうか。上品な笑顔は家と同じく明るい印象だ。
「井川……?ああ、白いアネモネのお嬢さんね」
一瞬返事に詰まったが、確か留美子が祠に供えていた花が確かアネモネだったと思い返す。
「どういったご用件かしら」
「実は、高速道路における交通事故のことを色々と調べておりまして、ご主人が祠を建てたり5年前の事故の遺族会をやられた経緯について、是非お話をお伺いしたくて参ったんですが」
そう言って架空の雑誌社の名刺を渡す。
話をスムーズに聞く際の必殺技だ。名刺の種類で相手の態度を180度変えることが出来る。
「あら、そうですか。けど……残念ながら主人は先日」
「ええ、存じています。奥様がご存知の範囲内で構わないんですが」
「───わかりました。主人の残した写真がありますからそちらでよろしいかしら」
「助かります」
仏間で線香をあげた後、リビングに通された。
PR
かいこん ほこら
悔恨の小祠