かいこん ほこら
悔恨の小祠
───……ッ!
はっとして、高耶は目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
タイミング良く車へと戻ってきた直江が声をかける。
窓の外を見るとどこかの駐車場の様だった。
助手席のシートを倒して眠っていたようだ。
妙な夢を見ていた気がする。内容はよく思い出せないが。
「身体がひどく冷えていますね……暖かいものでも飲んだほうがいい」
そう言われて初めて、自分が寒さと息苦しさを感じていることに気付いた。
身体が小刻みに震えている。
「さみぃ」
「いま持ってます。コーヒーでいいですか?」
直江に支えられるようにして、起き上がる。
「どこだ、ここ」
「梓川のサービスエリアですよ」
そう言い残して直江は自販機へと向かった。
「サービスエリア………?」
自分達は安曇野から松本へ帰る途中だったはずだ。
その移動にわざわざ高速道路を使ったのだろうか。
いつもだったら文句のひとつでも言うところだが、気分が悪くそんな気になれない。
身体の芯から冷水にさらされたように寒い。
胸が圧迫されているように苦しい。
自分で自分の肩をさするようにしていると、すぐに直江が紙コップを手にやってきた。
安曇野市内で原因不明の水難事故が続いている、と直江から連絡があったのは3日前ことだった。
被害者は共通して政府関係者で、もしかしたら怨霊絡みかもしれないという。
霊査の訓練がてら現場を見に行くから、休日を空けておけというのである。
二つ返事で快諾、とはならなかった。
高耶は既にバイトの予定も入れているし、それが終われば譲の買い物に付き合う約束もある。
ところが直江はしつこくて、色々ともっともらしいことを言って連れ出そうとする。
それでも気の乗らない高耶を動かす決定打となったのは、最後の最後に放ったこの一言だった。
「まぁ、どうしても無理だと言うならばあきらめます。いざというとき《力》が使えなくて足を引っ張ることのないようにして下さい」
直江のその直接的な嫌味は、逆に高耶に火を点けた。
(頼み込まれるならともかく、足手まとい扱いかよっっ)
《闇戦国》について、未だに"妙なことに巻き込まれた"という気でいる高耶は、直江や綾子が忙しそうにあちこちを駆け回っていてもどこか他人顔だ。
まだ自分を景虎と認めるつもりもない。付き合ってやっている、という感覚がある。それなのに。
(こうなったら絶対に見返してやるっ!!)
結局、バイトを午前中で切り上げて、午後は直江に付き合うことにした。
当日は快晴だった。
デート日和だなどとふざける直江とともに現地に着いたのが午後3時過ぎ。
早速、霊査の実地訓練が始まった。
ところが高耶のやる気をよそに、霊的な兆候が全くみられない。
どうやら連続水難事故は本当にただの偶然だったらしい。
高耶がいくら集中しても、もちろん手ごたえがあるはずもなく、怨霊とは無関係だろうということで早々に現場を引き上げる事となった。
ブーブーと文句をたれる高耶の機嫌をなおすために、直江は安曇野郊外にある蕎麦屋に行こうと言い出した。
名うての信州そばは結構食べつくしてきたと思っていた長野県民の高耶だったが、その店の名を聞くのは初めてだった。
一見民家のような、隠れた名店と呼ぶのに相応しい佇まいで、周囲ののどかな景色も、静かな雰囲気も、店主の応対も、もちろん味も、高耶はとても気に入った。
出汁がどうとか、一緒に出たてんぷらの揚げ方がどうだとか、はしゃぐ高耶に直江も終始笑顔で付きあった。
大満足して店を出た後で、実は1ヶ月待ちもざらの完全予約制の人気店だと知った高耶は、なんとなく直江の陰謀の匂いを感じ取ったが、心地よい運転と満腹感のせいか急激な睡魔に襲われて、そのまま眠り込んでしまったのである。
はっとして、高耶は目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
タイミング良く車へと戻ってきた直江が声をかける。
窓の外を見るとどこかの駐車場の様だった。
助手席のシートを倒して眠っていたようだ。
妙な夢を見ていた気がする。内容はよく思い出せないが。
「身体がひどく冷えていますね……暖かいものでも飲んだほうがいい」
そう言われて初めて、自分が寒さと息苦しさを感じていることに気付いた。
身体が小刻みに震えている。
「さみぃ」
「いま持ってます。コーヒーでいいですか?」
直江に支えられるようにして、起き上がる。
「どこだ、ここ」
「梓川のサービスエリアですよ」
そう言い残して直江は自販機へと向かった。
「サービスエリア………?」
自分達は安曇野から松本へ帰る途中だったはずだ。
その移動にわざわざ高速道路を使ったのだろうか。
いつもだったら文句のひとつでも言うところだが、気分が悪くそんな気になれない。
身体の芯から冷水にさらされたように寒い。
胸が圧迫されているように苦しい。
自分で自分の肩をさするようにしていると、すぐに直江が紙コップを手にやってきた。
安曇野市内で原因不明の水難事故が続いている、と直江から連絡があったのは3日前ことだった。
被害者は共通して政府関係者で、もしかしたら怨霊絡みかもしれないという。
霊査の訓練がてら現場を見に行くから、休日を空けておけというのである。
二つ返事で快諾、とはならなかった。
高耶は既にバイトの予定も入れているし、それが終われば譲の買い物に付き合う約束もある。
ところが直江はしつこくて、色々ともっともらしいことを言って連れ出そうとする。
それでも気の乗らない高耶を動かす決定打となったのは、最後の最後に放ったこの一言だった。
「まぁ、どうしても無理だと言うならばあきらめます。いざというとき《力》が使えなくて足を引っ張ることのないようにして下さい」
直江のその直接的な嫌味は、逆に高耶に火を点けた。
(頼み込まれるならともかく、足手まとい扱いかよっっ)
《闇戦国》について、未だに"妙なことに巻き込まれた"という気でいる高耶は、直江や綾子が忙しそうにあちこちを駆け回っていてもどこか他人顔だ。
まだ自分を景虎と認めるつもりもない。付き合ってやっている、という感覚がある。それなのに。
(こうなったら絶対に見返してやるっ!!)
結局、バイトを午前中で切り上げて、午後は直江に付き合うことにした。
当日は快晴だった。
デート日和だなどとふざける直江とともに現地に着いたのが午後3時過ぎ。
早速、霊査の実地訓練が始まった。
ところが高耶のやる気をよそに、霊的な兆候が全くみられない。
どうやら連続水難事故は本当にただの偶然だったらしい。
高耶がいくら集中しても、もちろん手ごたえがあるはずもなく、怨霊とは無関係だろうということで早々に現場を引き上げる事となった。
ブーブーと文句をたれる高耶の機嫌をなおすために、直江は安曇野郊外にある蕎麦屋に行こうと言い出した。
名うての信州そばは結構食べつくしてきたと思っていた長野県民の高耶だったが、その店の名を聞くのは初めてだった。
一見民家のような、隠れた名店と呼ぶのに相応しい佇まいで、周囲ののどかな景色も、静かな雰囲気も、店主の応対も、もちろん味も、高耶はとても気に入った。
出汁がどうとか、一緒に出たてんぷらの揚げ方がどうだとか、はしゃぐ高耶に直江も終始笑顔で付きあった。
大満足して店を出た後で、実は1ヶ月待ちもざらの完全予約制の人気店だと知った高耶は、なんとなく直江の陰謀の匂いを感じ取ったが、心地よい運転と満腹感のせいか急激な睡魔に襲われて、そのまま眠り込んでしまったのである。
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かいこん ほこら
悔恨の小祠