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かいこん ほこら
悔恨の小祠
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 高耶は教室の自分の席で黒板を見つめていた。
───その気になったらいつでも言ってください
 油断すると反芻している。
 昨日の直江の言葉。
 必死で頭の中から追い出す。
 あいつに頼ってはいけない。
 何故かそう思う。
 あの男に期待をしてはいけない。側に置いてはいけない。信用してはいけない。
 警鐘をならす何者かが心に棲んでいるかのようだ。
 反面、直江の保護者のような態度や優しさを切に望んでいる自分がいる。
 身を任せてしまいたい自分と遠ざけたい自分。
 高耶は痛む頭をなんとかしたくて、こめかみを指で押した。
 昨日は殆ど眠れなかったのだ。
 直江のことだけではなく。
 "アイツ"のことも忘れられないでいた。
 眠りにつくかつかないかの瞬間、あの感情に襲われる。
 直江の言うとおり、アイツが自分に乗り移ってしまったかのようだった。
(苦しみを取り除くための《調伏》か……)
 《調伏》で、あの息の苦しくなるような感情からアイツを救うことができるのだろうか。
 あの苦しみを終わりにすることができるのだろうか。
 自分ひとりでは無理かもしれない。
───彼らには真っ白な来世が待っているのだから
 これ以上、被害が出る前に。アイツが罪を重ねる前に。
 アイツを楽に……。
「高耶?」
「……ゆずる」
「どうしたの。昼飯、食わないの?」
 気がつくと午前中の授業は終わっていた。
 譲が惣菜パンを手にして目の前に座っている。
 同じくやってきた千秋も、ビニール袋から牛丼を出してみせる。
「見ろよこれ。いま割引期間中なんだぜ。朝買って来ちまった。汁もネギもだっくだくの大盛」
「えー、冷めたらまずいって」
「ばっか、冷めてもウマいのが牛丼だろうが」
 妙なこだわりを主張し合うふたりを黙って眺めていた高耶は意を決したように言った。
「なあ、千秋」
「あんだよ」
「授業終わったら、昨日んとこ連れてってくんねぇか?」
「……何でだ」
「《調伏》しにいく。アイツを」
 突然の宣言に譲は目を丸くして高耶を見つめたが、千秋は察しがついていたのか片眉をあげただけだった。
「直江が情報掴んで来んのを待つか、晴家に霊査させて正体見極めたほうがいいと思うけどな」
「待ってられない。あんな苦しい想いしてんのに、これ以上放っては置けない」
「突っ走んじゃねーよ、ばぁか。大体おめーは《力》も満足に使えねえじゃねぇか。敵を理解せずに力で押し切ったってロクな結果にならないんだって。少しは冷静になって客観的に見てみろ。《調伏》せずにすむ話をかえってこじらす可能性だってある。後味悪い思いすんのは自分なんだからな」
 少し強めの口調にも、高耶の眼に宿る意思は変わらない。
「ならいい。ひとりでいく」
 道は大体覚えている。バイクで行けばすぐなはずだ。
 千秋は高耶の顔をじっとみつめた。
「……そういうとこは変わんねーのな」
 うんざりした顔をわざとらしく作ると、牛丼のふたを開けた。
「しょうがねえ、ついてってやるよ。気が済むまでやりゃあいいさ」
 割り箸を持ちつつ、いただきますと言うと、牛丼をがっつき始めた。
「高耶、ほんとに大丈夫?直江さん、呼んだほうがいいんじゃない」
「必要ないって。お前ももうついてくんなよ」
「いかないけどさ」
 譲は心配そうにしている。
 その様子を横目で見ながら、千秋はあっという間に昼食をかきこんだ。
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