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かいこん ほこら
悔恨の小祠
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 そんな千秋にはお構いなしで、高耶は粘液の霊を前に立っていた。
「あんた、浩二さんだろ」
 浩二は両膝を地面につけて泣いていた。
 感情がひしひしと伝わってくる。
「何をそんなに泣いてんだよ……」
 誰も悪くはないのに。浩二も留美子も道男も誰も悪くないのに、何故不幸な道を行かなければならないのか。
 呼びかけには答えない。ただひたすら空を見たまま涙を流している。
「あんたに会いたがってる人がいるんだ」
 浩二の涙は止まらない。やはりこちらを見すらしない。
 高耶は集中した。思念派で伝える。
《留美子って人から伝言があるんだ》
 高耶は少し躊躇ってから、その言葉を告げた。
《一生、あんたのことを想ってるって》
 直江が留美子から頼まれた伝言はそれだった。
 "一生、浩二のことを想ってる"。
 留美子の決意だった。
 子どもじみた夢はもう諦めて、一生をかけて浩二の心残りと向き合うつもりだという。
《………》
 初めて浩二がこちらをみた。
 やはり言葉を紡ぐことはないが、口が何かを喋っている。必死の形相で高耶の方を見てくる。
 しかし、やっぱり意志を伝える方法がわからないらしい。聴こえない。
「それじゃわかんねーよ!!」
 思念で伝えて欲しいと言ってみても、口をぱくぱくと動かすだけだ。
 と、突然千秋が悲鳴をあげた。
 御狸が最期の力を振り絞って立ち上がりかけている。千秋は念を打ち込んで更に霊力の削ぎ落としにかかる。
「景虎っ!早くしろっ!」
「ちきしょっ!何言ってっかわかんねーんだよっ!」
 高耶は思わず浩二の粘液の身体に触れた。
 瞬間。
 高耶の脳裏に鮮烈なイメージが浮かんだ。

 咲き乱れる色とりどりの花々
 小さな教会
 純白のドレス
 幸せそうな笑顔

 ゴ メ ン ネ 

 高耶は目を見開いた。
 イメージは止まらない。
 次々と頭の中に溢れ出す。
 どの場面でも、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「それがあんたの伝えたかったことなのか……」
 恋人を取られたことへの恨みでもなく、自分の命を奪った犯人への恨みでもなく、ただ彼女の夢を叶えてあげられなかった自分を責めていたのか。
 独りにしてごめん。何もしてあげられなくてごめん。
 きっと君は夢を諦めてしまうだろう、俺のせいで。
 でも、それは嫌だ。
 いつまでも君には笑顔でいて欲しいから。

 ネ ガ イ ヲ カ ナ エ テ

「分かった……伝えるから……ッ!」
 高耶がそう叫ぶと、浩二は必死の形相を崩して、初めて安堵の表情を浮かべた。
 すると身体が溶けるように崩れ始め、粘液の塊へと戻っていく。
 心残りがなくなったからだろう。しかし粘液に憑着したままでは浄化できない。
 彼を解放するには、《調伏》しかない。
 決断の時だ。
 高耶は調伏を決意した。
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かいこん ほこら
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