かいこん ほこら
悔恨の小祠
死体や人形を憑巫にする霊は見たことがあったが、こんな無形のものを選ぶとは。
お陰で、完全な人型にもなれずに、出来損ないのままうごめいている。
───ヴヴウォォォォゥゥ……
恐ろしげな苦悶の声が透明な粘土人形から漏れる。
御狸は霊魂を捕らえ、粘液に閉じ込めることによって操ることができるのだろう。
あの大きな腹の中で、たっぷりの粘液に浸った霊魂がギュウギュウ詰めになっている様子を想像して、千秋は胃がムカついてきた。
思わず眉間に皺を寄せて出来損ないの人形をみつめていると、溶けたような顔の両目らしき部分から、粘液が筋になってつたっている。
涙のようにみえた。
「ひでえ……」
意識があるのかもわからない。
まわりがどんな風にみえているのか。もしかしたら見えてすらいないかもしれないが、人ではないものになってしまったことを嘆いているようだった。
霊査するように探ってみると、彼らの声が千秋にも聞こえた。
───タスケテクレ……!
───ドウシタライインダ……!
思わず耳をふさぎたくなるような苦しげな叫び。
ズキズキと体の中心が傷んでたまらない気持ちになる。
「千秋っ!!なんとかしてやってくれっ!!」
高耶が頭を抑えながら叫んでいた。
「早く……っ!」
粘液の霊たちはそれでも攻撃をするつもりなのか、ずるずると未完成の身体を引き摺って千秋の方へ向かって来る。
肝心の御狸は口を大きく開けたまま、立ち上がれずにぐったりとしている。
心なしか身体の大きさがひとまわり小さくなっているように見えた。
「本体が動いたら抑えてくれ!できるか?!」
「やってみる……!」
先ほどの攻撃で自信をつけたのか、力強くうなずいた高耶に御狸を任せて、千秋は吐き出された霊魂に向き直ると印を結んだ。
それが霊魂である以上、《調伏》するしかない。
「阿梨 那梨 ト那梨 阿那盧 那履 拘那履!!」
印を結びながら真言を唱えて、最期を通告する。
「───バイッ!!」
うねうねと動いていたモノがぴたりと動きをとめた、と思った瞬間、異次元へ入り込んだかのように掻き消え、後にはヌメっとした液体のみが残った。
「バイッ!!」
続けて高耶に向けて放たれた霊魂も、《調伏》する。
けれど、それをみた御狸は苦しげに身体を歪ませながら、立て続けに霊魂を吐き出し始めた。
「千秋っ!」
「わかってるよっ!!───バイッ!!」
《調伏》しても、すぐにまた霊魂が吐き出される。
「バイッ!!」
それの繰り返しとなった。
下手に念を放てば腹の中の無防備な霊魂を傷つけるということが解った高耶も手出しが出来ない。
御狸本体が隙を見て動き出そうとする度に、ぎこちない《外縛》で押さえ込む。
千秋の持久力と御狸の中の霊魂量の争いになった。
だが、吐き出す度に御狸の体積が明らかに小さくなっていっている。
十数体は《調伏》しただろうか。
「ラストにしよーぜ……」
そろそろ集中力も切れてきた千秋は息を切らしながら言った。
御狸はすっかり小さくなっている。
それでもまだ、吐き出すモノが残っていたようだ。
ゴポボボオオォォッッ
吐き出された塊は千秋に向かって飛んだ後、失速して地面に落ち、またしても伸縮を始める。
千秋が《調伏》しようと印を結び始めたとき、高耶が叫んだ。
「待ってくれ!」
その霊魂はその霊自体の霊力が強いせいか、人の姿を模ることが出来た。生前の姿がわかるほどだ。
焼けた衣服、ただれた皮膚。若い男だ。
「あんた……まさか……」
何を思ったか高耶は御狸の《外縛》を解いて、その若い男の霊の元に駆け寄った。
「おいっ!景虎っ!」
放りだされた御狸を見て、ちっと舌打ちすると今度は千秋が本体に向き直る。
まったく無茶すぎる。ルールも何もあったもんじゃない。
あまりにも行動が以前の景虎とかけ離れている。
千秋は前もって段取りを決めておかなかったことを少し後悔していた。
お陰で、完全な人型にもなれずに、出来損ないのままうごめいている。
───ヴヴウォォォォゥゥ……
恐ろしげな苦悶の声が透明な粘土人形から漏れる。
御狸は霊魂を捕らえ、粘液に閉じ込めることによって操ることができるのだろう。
あの大きな腹の中で、たっぷりの粘液に浸った霊魂がギュウギュウ詰めになっている様子を想像して、千秋は胃がムカついてきた。
思わず眉間に皺を寄せて出来損ないの人形をみつめていると、溶けたような顔の両目らしき部分から、粘液が筋になってつたっている。
涙のようにみえた。
「ひでえ……」
意識があるのかもわからない。
まわりがどんな風にみえているのか。もしかしたら見えてすらいないかもしれないが、人ではないものになってしまったことを嘆いているようだった。
霊査するように探ってみると、彼らの声が千秋にも聞こえた。
───タスケテクレ……!
───ドウシタライインダ……!
思わず耳をふさぎたくなるような苦しげな叫び。
ズキズキと体の中心が傷んでたまらない気持ちになる。
「千秋っ!!なんとかしてやってくれっ!!」
高耶が頭を抑えながら叫んでいた。
「早く……っ!」
粘液の霊たちはそれでも攻撃をするつもりなのか、ずるずると未完成の身体を引き摺って千秋の方へ向かって来る。
肝心の御狸は口を大きく開けたまま、立ち上がれずにぐったりとしている。
心なしか身体の大きさがひとまわり小さくなっているように見えた。
「本体が動いたら抑えてくれ!できるか?!」
「やってみる……!」
先ほどの攻撃で自信をつけたのか、力強くうなずいた高耶に御狸を任せて、千秋は吐き出された霊魂に向き直ると印を結んだ。
それが霊魂である以上、《調伏》するしかない。
「阿梨 那梨 ト那梨 阿那盧 那履 拘那履!!」
印を結びながら真言を唱えて、最期を通告する。
「───バイッ!!」
うねうねと動いていたモノがぴたりと動きをとめた、と思った瞬間、異次元へ入り込んだかのように掻き消え、後にはヌメっとした液体のみが残った。
「バイッ!!」
続けて高耶に向けて放たれた霊魂も、《調伏》する。
けれど、それをみた御狸は苦しげに身体を歪ませながら、立て続けに霊魂を吐き出し始めた。
「千秋っ!」
「わかってるよっ!!───バイッ!!」
《調伏》しても、すぐにまた霊魂が吐き出される。
「バイッ!!」
それの繰り返しとなった。
下手に念を放てば腹の中の無防備な霊魂を傷つけるということが解った高耶も手出しが出来ない。
御狸本体が隙を見て動き出そうとする度に、ぎこちない《外縛》で押さえ込む。
千秋の持久力と御狸の中の霊魂量の争いになった。
だが、吐き出す度に御狸の体積が明らかに小さくなっていっている。
十数体は《調伏》しただろうか。
「ラストにしよーぜ……」
そろそろ集中力も切れてきた千秋は息を切らしながら言った。
御狸はすっかり小さくなっている。
それでもまだ、吐き出すモノが残っていたようだ。
ゴポボボオオォォッッ
吐き出された塊は千秋に向かって飛んだ後、失速して地面に落ち、またしても伸縮を始める。
千秋が《調伏》しようと印を結び始めたとき、高耶が叫んだ。
「待ってくれ!」
その霊魂はその霊自体の霊力が強いせいか、人の姿を模ることが出来た。生前の姿がわかるほどだ。
焼けた衣服、ただれた皮膚。若い男だ。
「あんた……まさか……」
何を思ったか高耶は御狸の《外縛》を解いて、その若い男の霊の元に駆け寄った。
「おいっ!景虎っ!」
放りだされた御狸を見て、ちっと舌打ちすると今度は千秋が本体に向き直る。
まったく無茶すぎる。ルールも何もあったもんじゃない。
あまりにも行動が以前の景虎とかけ離れている。
千秋は前もって段取りを決めておかなかったことを少し後悔していた。
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かいこん ほこら
悔恨の小祠