かいこん ほこら
悔恨の小祠
「あんたも、浩二って人の知り合いだったのか」
道男は高耶の不躾な質問にも大して動じることなく、困ったような笑顔を返した。人の好い笑顔だ。
「実は……」
鋭い視線に促されるようにして、素直にいきさつを喋り始めた。
「小松浩二は、ルミちゃんの──井川留美子さんの婚約者だったんです。さっきは僕の手前、友人なんて言ってましたけど」
彼の話はこんな内容だった。
1年程前、浩二は玉突き事故の起きた場所のすぐそばで事故にあった。
乗用車で夜間走行中に、飲酒運転の大型車がスリップしたところに巻き込まれたのだという。
事故後すぐに車が炎上したため、浩二の遺体はかなり損傷が激しかったそうだ。
当時、留美子と浩二はすでに結婚を決めていて、再来月には式をあげる、というところまで話が進んでいた。
「ルミちゃんの家の近くに教会があって、彼女はそこで結婚式をするのが、小さい頃からの夢だったそうなんです。浩二は絶対に夢をかなえてやりたいって張り切ってて……」
二人とも多くはない給料から少しずつ貯金して、やっと挙式の目処がたった矢先の事故だった。
───約束したの、浩二と。あの教会で式を挙げるって
結婚を決めたばかりの頃、嬉しそうに話していた留美子の表情を、道男は今でも忘れられないという。
先ほど供えていた花も、春先に教会に咲くものと同じものだそうだ。
当の道男は、浩二とはふたりが付き合い始める前からの友人で、浩二の死後、彼女の傍にいるうちに好意を持つようになったのだという。
「もう気持ちは伝えてあるんですが、お付き合いまではオーケーもらえてなくて。でもルミちゃんも同じ気持ちでいるって言ってくれてるんです。だから浩二のことに決着がついたら、次は僕が夢をかなえてあげたいって思っていて」
浩二の分までね、と笑う道夫に嫉妬や自嘲の影はまったく見られない。
(いい奴だな)
心底、留美子のことが好きなのが伝わってくる。道男の眼には留美子はどれほど魅力的に映っているのだろうか。
「ただ、浩二はどう思ってるかわからない。もしかしてあいつ、オレのルミちゃんに対する気持ちを怒って成仏できないでいるのかもしれないです」
道男はため息をついた。
恋愛には決して聡いとはいえない高耶だったが、愛する人との結婚を目前にして死んだのならこの世に未練が残って当たり前だろうと思う。
ただ、ドライブがてらとはいえ毎回一緒にここへ来ているという道男の気持ちが、なんだかもどかしくて切ないと思った。
浩二を放って置けない留美子の気持ちもわかるが、当の浩二は消えてしまったのだ。
留美子は道男との幸せを考えるべきではないのかと思う。
まあ、そこらへんをうまく説明する自信は高耶にはないので、口にはしないが。
(浩二って人は一体何を伝えたかったんだろう)
それさえわかれば、留美子も新たな一歩を踏み出せるかもしれない。
もし何かを伝えたい相手というのが留美子だというのなら、なぜ想いを果たさずに浄化してしまったのだろうか。
知りたい気持ちがますます強くなってしまった。
道男は高耶の不躾な質問にも大して動じることなく、困ったような笑顔を返した。人の好い笑顔だ。
「実は……」
鋭い視線に促されるようにして、素直にいきさつを喋り始めた。
「小松浩二は、ルミちゃんの──井川留美子さんの婚約者だったんです。さっきは僕の手前、友人なんて言ってましたけど」
彼の話はこんな内容だった。
1年程前、浩二は玉突き事故の起きた場所のすぐそばで事故にあった。
乗用車で夜間走行中に、飲酒運転の大型車がスリップしたところに巻き込まれたのだという。
事故後すぐに車が炎上したため、浩二の遺体はかなり損傷が激しかったそうだ。
当時、留美子と浩二はすでに結婚を決めていて、再来月には式をあげる、というところまで話が進んでいた。
「ルミちゃんの家の近くに教会があって、彼女はそこで結婚式をするのが、小さい頃からの夢だったそうなんです。浩二は絶対に夢をかなえてやりたいって張り切ってて……」
二人とも多くはない給料から少しずつ貯金して、やっと挙式の目処がたった矢先の事故だった。
───約束したの、浩二と。あの教会で式を挙げるって
結婚を決めたばかりの頃、嬉しそうに話していた留美子の表情を、道男は今でも忘れられないという。
先ほど供えていた花も、春先に教会に咲くものと同じものだそうだ。
当の道男は、浩二とはふたりが付き合い始める前からの友人で、浩二の死後、彼女の傍にいるうちに好意を持つようになったのだという。
「もう気持ちは伝えてあるんですが、お付き合いまではオーケーもらえてなくて。でもルミちゃんも同じ気持ちでいるって言ってくれてるんです。だから浩二のことに決着がついたら、次は僕が夢をかなえてあげたいって思っていて」
浩二の分までね、と笑う道夫に嫉妬や自嘲の影はまったく見られない。
(いい奴だな)
心底、留美子のことが好きなのが伝わってくる。道男の眼には留美子はどれほど魅力的に映っているのだろうか。
「ただ、浩二はどう思ってるかわからない。もしかしてあいつ、オレのルミちゃんに対する気持ちを怒って成仏できないでいるのかもしれないです」
道男はため息をついた。
恋愛には決して聡いとはいえない高耶だったが、愛する人との結婚を目前にして死んだのならこの世に未練が残って当たり前だろうと思う。
ただ、ドライブがてらとはいえ毎回一緒にここへ来ているという道男の気持ちが、なんだかもどかしくて切ないと思った。
浩二を放って置けない留美子の気持ちもわかるが、当の浩二は消えてしまったのだ。
留美子は道男との幸せを考えるべきではないのかと思う。
まあ、そこらへんをうまく説明する自信は高耶にはないので、口にはしないが。
(浩二って人は一体何を伝えたかったんだろう)
それさえわかれば、留美子も新たな一歩を踏み出せるかもしれない。
もし何かを伝えたい相手というのが留美子だというのなら、なぜ想いを果たさずに浄化してしまったのだろうか。
知りたい気持ちがますます強くなってしまった。
PR
かいこん ほこら
悔恨の小祠