かいこん ほこら
悔恨の小祠
ふたりのやりとりを静かに見守っていた千秋は、高耶の肩をポンと叩いた。
「引導、渡してやれよ」
高耶もうなずく。
立ち上がると印を結んだ。
だが、なんだか感覚が先程と違う。
「のうまく……さまんだ、ぼだなん、ばいしらまんだら……や?」
あれほどスムーズに出てきた真言も思い出すだけで精一杯だ。
「あれ…?」
「お前なあ……」
千秋はガクッとずっこけた。
「ったく、しょーがねーなー」
高耶を押しのけるようにして町田の前に立つと、千秋はビシっと印を結んだ。
「のうまくさまんだ ぼだなん ばいしらまんだやそわか!」
外縛はしない。町田は観念したように手を合わせている。
「南無刀八毘沙門天! 悪鬼征伐! 我に御力与えたまえ!」
目に痛いほどの真白い光が千秋の手の中で輝いた。
「《調伏》!!」
町田の霊魂は抗うことなく消えていった───。
これですべてが終わった。
合掌を解いた千秋の横で、高耶は大きくため息をついた。
できる限りのことはやった。
「景虎」だったらもっといい形で送ってやれたのかもしれないが、今の自分にしては上出来だ。
(俺は俺であればいいんだろう?)
自分のやり方を貫けたと思う。
けれど、そのやり方に不満を抱く人間がすぐ隣にいた。
ゲシッ
「いってぇぇ!何すんだっ!」
千秋のケリが高耶の尻に見事にヒットした。
「あほっ!何すんだはこっちのセリフじゃっ!おめーは自由すぎんだよっ!大将だからって何でも許されると思ったら大間違いなんだからな、この女王気質が!」
「なんだよっ女王って!」
「るっせえ!このクイーンタイガーがっ!」
更に続けて千秋が説教(?)を始めようとしたところに、遠くの方からガサガサっと緑を押しのける音がした。不自然な木々の揺れがだんだんと近づいてくる。
まだ何かいたのか、とふたりとも思わず身構えたところへ、黒い塊が飛び出してきた。
「景虎様……!」
「直江!」
息を乱して現れたのは直江だった。
千秋がヒュウと口笛を吹く。
「ほんとに来きやがった。つーかどんだけ飛ばしてきたんだよ」
あたりの木々や祠がつぶれている惨劇をみて唖然としていた直江は、高耶と目があうと駆け寄ってきた。
「怪我はありませんか!」
肩口をつかんでゆすってくる。
「あ、ああ。大丈夫だ」
直江はほっとため息はついたものの眉間の皺が消えない。
「ちゃんと《調伏》も出来たし、心配するほどのモンじゃなかったって。なぁ千秋」
「ぶわぁ~か虎。俺様がいたからなんとかなったんだろーが。たっぷり直江に絞ってもらえ」
「げっ!逃げんのかよ!」
千秋はお先~と手をヒラヒラさせてさっさと帰ってしまった。
「直江?」
先ほどから掴んだ肩を離そうとしない直江に高耶は声を掛ける。
気まずそうにしている高耶に気付いた直江は身体を離した。
「……送ります」
高耶は無言で車へと戻る直江の後に続いた。
「引導、渡してやれよ」
高耶もうなずく。
立ち上がると印を結んだ。
だが、なんだか感覚が先程と違う。
「のうまく……さまんだ、ぼだなん、ばいしらまんだら……や?」
あれほどスムーズに出てきた真言も思い出すだけで精一杯だ。
「あれ…?」
「お前なあ……」
千秋はガクッとずっこけた。
「ったく、しょーがねーなー」
高耶を押しのけるようにして町田の前に立つと、千秋はビシっと印を結んだ。
「のうまくさまんだ ぼだなん ばいしらまんだやそわか!」
外縛はしない。町田は観念したように手を合わせている。
「南無刀八毘沙門天! 悪鬼征伐! 我に御力与えたまえ!」
目に痛いほどの真白い光が千秋の手の中で輝いた。
「《調伏》!!」
町田の霊魂は抗うことなく消えていった───。
これですべてが終わった。
合掌を解いた千秋の横で、高耶は大きくため息をついた。
できる限りのことはやった。
「景虎」だったらもっといい形で送ってやれたのかもしれないが、今の自分にしては上出来だ。
(俺は俺であればいいんだろう?)
自分のやり方を貫けたと思う。
けれど、そのやり方に不満を抱く人間がすぐ隣にいた。
ゲシッ
「いってぇぇ!何すんだっ!」
千秋のケリが高耶の尻に見事にヒットした。
「あほっ!何すんだはこっちのセリフじゃっ!おめーは自由すぎんだよっ!大将だからって何でも許されると思ったら大間違いなんだからな、この女王気質が!」
「なんだよっ女王って!」
「るっせえ!このクイーンタイガーがっ!」
更に続けて千秋が説教(?)を始めようとしたところに、遠くの方からガサガサっと緑を押しのける音がした。不自然な木々の揺れがだんだんと近づいてくる。
まだ何かいたのか、とふたりとも思わず身構えたところへ、黒い塊が飛び出してきた。
「景虎様……!」
「直江!」
息を乱して現れたのは直江だった。
千秋がヒュウと口笛を吹く。
「ほんとに来きやがった。つーかどんだけ飛ばしてきたんだよ」
あたりの木々や祠がつぶれている惨劇をみて唖然としていた直江は、高耶と目があうと駆け寄ってきた。
「怪我はありませんか!」
肩口をつかんでゆすってくる。
「あ、ああ。大丈夫だ」
直江はほっとため息はついたものの眉間の皺が消えない。
「ちゃんと《調伏》も出来たし、心配するほどのモンじゃなかったって。なぁ千秋」
「ぶわぁ~か虎。俺様がいたからなんとかなったんだろーが。たっぷり直江に絞ってもらえ」
「げっ!逃げんのかよ!」
千秋はお先~と手をヒラヒラさせてさっさと帰ってしまった。
「直江?」
先ほどから掴んだ肩を離そうとしない直江に高耶は声を掛ける。
気まずそうにしている高耶に気付いた直江は身体を離した。
「……送ります」
高耶は無言で車へと戻る直江の後に続いた。
PR
かいこん ほこら
悔恨の小祠