かいこん ほこら
悔恨の小祠
「あなたがこうすべきだと判断したのなら、私は従うまでです。むやみに反対したりはしない。そんなに私が信用できませんか」
「……そんなんじゃない」
「私のいないところで、あなたの身に何かあったら……」
高耶が直江を見ると、その顔が苦しげに歪んでいた。
「もう二度とあなたを失いたくないんです」
「直江……」
「あなたは自分の身を第一に考えろと言ったって、聞く人ではありません。簡単に自らを投げ出してしまう。だから、あなたのことは私が護ると決めたんです。あなたが何ものかを護るというのなら、それ以上の強さで私があなたを護る。だから、無茶をしたいのならば、私の手の届くところにしてもらえませんか」
あまりにも真剣な表情で端からみれば脅しているようにも見える程だったが、高耶はまるで懇願されているような印象を覚えた。
「オレは、お前に護られるつもりはない」
「それでも構いません。私が勝手に護ります」
「………ッ」
高耶がどう言ったって、直江の心は少しも揺れないらしい。人の気も知らないで、となんだか怒りすら覚える。
「そうやって……オレはお前に怪我させるのか?霊と戦う度に?」
「……高耶さん」
「いつか怪我だけじゃあすまなくなるかもしれない」
もし、自分のせいで直江が命を落とすようなことになったら……。
そんなのは高耶はたまらないと思う。
一瞬黙った直江は、再び口をひらいた。
「命は……かけがえの無いものです。尊いものです。けれど私にはそれとは別にとてもつもなく重要なことがあります。それがあなたを護ることなんです」
高耶は自分の心臓を握り締められたかと思った。
「宿体を護ることに囚われて、あなたを護れないような間抜けな男にはなりたくありません」
そんな風に言われても全然嬉しくない、と必死に思い込む。甘えたい心を必死に抑え込む。
「命を投げ出してもいいってゆーのか……ッ」
「いいえ、投げ出すつもりもありません。かけがえのないものだと言ったでしょう?それにあなたを護る為にもやはりこの身体は必要なんです」
直江の目はひどく真剣に光っている。
「優先順位を誤りたくないということです」
暫く黙っていた高耶は不意に直江の瞳を探るように見つめた。
「お前は俺の……景虎のために生きているのか」
今度は直江が身体を強張らせる番だった。
重い沈黙がふたりに圧し掛かる。
何も答えない直江に、高耶は言った。
「わかった、もうきかねーよ」
高耶は大きくため息をついた。
「もう、もう怒んなよ……」
こういう雰囲気は苦手だ。
「あなたに怒っているわけではないんです」
そんな高耶に直江は目を伏せてから、車の外に視線を移した。
「自分を許せなかったんです。あなたの行動くらい、すぐに解って当然だったはずなのに」
それを聞いて高耶がどうせオレは短絡的だよ、と口を尖らせると、車内の空気が少し和らいだ。
直江の発する雰囲気も、いつの間にか普段の直江のものに戻っている。
高耶は今ならずっと引っかかっていた事を聞ける気がした。
「なぁ、直江」
「はい」
「なんで俺を誘ったんだ、今回。ほんとは霊査の訓練なんて、嘘だったんだろ」
最初の安曇野の事を言いたかった。
「嘘ではありませんが……」
直江は急な話題に目を丸くして言葉を探している。
「疑わしい事故だったのは本当です。ただあなたを誘った理由は」
さらりと言った。
「どうしても蕎麦が食べたかったからですよ」
さすがに一人では予約が取りにくかったもので、と言う直江を、高耶は、まじかよ、と見つめた。
「冗談です」
「てめぇなあ……」
呆れ顔の高耶に直江は今度こそ真剣な顔で告げる。
「あなたの笑顔が見たかったからですよ」
一瞬、言葉に詰まった高耶だったが、からかわれたと思ったのか、力いっぱい怒鳴り返した。
「野郎の顔見て喜んでんじゃねーよっ!」
それを聞いた直江は、やっと笑顔を見せた。
「……そんなんじゃない」
「私のいないところで、あなたの身に何かあったら……」
高耶が直江を見ると、その顔が苦しげに歪んでいた。
「もう二度とあなたを失いたくないんです」
「直江……」
「あなたは自分の身を第一に考えろと言ったって、聞く人ではありません。簡単に自らを投げ出してしまう。だから、あなたのことは私が護ると決めたんです。あなたが何ものかを護るというのなら、それ以上の強さで私があなたを護る。だから、無茶をしたいのならば、私の手の届くところにしてもらえませんか」
あまりにも真剣な表情で端からみれば脅しているようにも見える程だったが、高耶はまるで懇願されているような印象を覚えた。
「オレは、お前に護られるつもりはない」
「それでも構いません。私が勝手に護ります」
「………ッ」
高耶がどう言ったって、直江の心は少しも揺れないらしい。人の気も知らないで、となんだか怒りすら覚える。
「そうやって……オレはお前に怪我させるのか?霊と戦う度に?」
「……高耶さん」
「いつか怪我だけじゃあすまなくなるかもしれない」
もし、自分のせいで直江が命を落とすようなことになったら……。
そんなのは高耶はたまらないと思う。
一瞬黙った直江は、再び口をひらいた。
「命は……かけがえの無いものです。尊いものです。けれど私にはそれとは別にとてもつもなく重要なことがあります。それがあなたを護ることなんです」
高耶は自分の心臓を握り締められたかと思った。
「宿体を護ることに囚われて、あなたを護れないような間抜けな男にはなりたくありません」
そんな風に言われても全然嬉しくない、と必死に思い込む。甘えたい心を必死に抑え込む。
「命を投げ出してもいいってゆーのか……ッ」
「いいえ、投げ出すつもりもありません。かけがえのないものだと言ったでしょう?それにあなたを護る為にもやはりこの身体は必要なんです」
直江の目はひどく真剣に光っている。
「優先順位を誤りたくないということです」
暫く黙っていた高耶は不意に直江の瞳を探るように見つめた。
「お前は俺の……景虎のために生きているのか」
今度は直江が身体を強張らせる番だった。
重い沈黙がふたりに圧し掛かる。
何も答えない直江に、高耶は言った。
「わかった、もうきかねーよ」
高耶は大きくため息をついた。
「もう、もう怒んなよ……」
こういう雰囲気は苦手だ。
「あなたに怒っているわけではないんです」
そんな高耶に直江は目を伏せてから、車の外に視線を移した。
「自分を許せなかったんです。あなたの行動くらい、すぐに解って当然だったはずなのに」
それを聞いて高耶がどうせオレは短絡的だよ、と口を尖らせると、車内の空気が少し和らいだ。
直江の発する雰囲気も、いつの間にか普段の直江のものに戻っている。
高耶は今ならずっと引っかかっていた事を聞ける気がした。
「なぁ、直江」
「はい」
「なんで俺を誘ったんだ、今回。ほんとは霊査の訓練なんて、嘘だったんだろ」
最初の安曇野の事を言いたかった。
「嘘ではありませんが……」
直江は急な話題に目を丸くして言葉を探している。
「疑わしい事故だったのは本当です。ただあなたを誘った理由は」
さらりと言った。
「どうしても蕎麦が食べたかったからですよ」
さすがに一人では予約が取りにくかったもので、と言う直江を、高耶は、まじかよ、と見つめた。
「冗談です」
「てめぇなあ……」
呆れ顔の高耶に直江は今度こそ真剣な顔で告げる。
「あなたの笑顔が見たかったからですよ」
一瞬、言葉に詰まった高耶だったが、からかわれたと思ったのか、力いっぱい怒鳴り返した。
「野郎の顔見て喜んでんじゃねーよっ!」
それを聞いた直江は、やっと笑顔を見せた。
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悔恨の小祠