かいこん ほこら
悔恨の小祠
すっかり身体の温まった高耶は、もう夜風も冷たくは感じない。
売店などが入った施設の裏口から外に出ると、そこは小さな公園のようになっていて、花壇やベンチが置かれていた。
その敷地のはずれ、暗い外灯の灯りに照らされて、ぽつんと小さな祠(ほこら)があった。
学校の百葉箱を思わせる白塗りの祠は、まだそれほど古くはないようにみえる。
「ここか……」
高耶は昼間教わったやり方で、あたりの目には見えないものの気配を探った。
が、何も感じない。
「いねーじゃん」
直江を振り返ると、やはり、という顔をしている。
「もしかしてあなたなら、と思ったのですが……。私も先程霊査してみましたが、残留思念すら感じられませんでした。どうやら浄化してしまったようですね」
なんだよ、と高耶は本日二度目の残念顔になった。
「そうがっかりしないで下さい。自然に浄化出来たのならば、喜ばしいことです」
苦笑いで直江が諭すと、高耶はあきらめきれないといった感じで祠を眺めた。
「そーだけど」
高耶は知りたかったのだ。
一体どんな心残りがあったのか。
浄化出来たということは、想いを果たすことが出来たのだろうか。
満足してこの世を去っていったのだろうか。
おかしな話だが、置いていかれたような寂しい気持ちがした。
「ねーさんに報告してやんなきゃな」
そう言った高耶は、祠に打ち付けられた木の札の題目に目を留めた。
「梓川玉突き事故追悼小詞……?」
手書きらしい毛筆でそう書いてあった。
「5年程前の事故のことですね。かなり大きな事故で数名の方が亡くなったはずです。覚えてませんか?」
「知らねーな」
「現場はすぐそこだったんですよ。事故の原因となった車のドライバーだけが奇跡的に一命を取り留めたこともあって、マスコミにも大きく取り上げられていました」
本当に覚えてないのか、と疑う視線から、高耶は眼を逸らした。
「……5年前はちょうどゴタゴタしてた時期だから」
直江は、ああ、という顔をした。
高耶は嫌な話題を避けるように、話を続ける。
「じゃあ火傷の霊もその事故で?」
直江は小首をかしげた。
「どうでしょう。彼が現れ出したのは1年程前のことでしたから、また別の事故かもしれませんね」
ただでさえ高速道路の事故は死亡事故に繋がるような大きなものが多い。霊のうまれやすい場所のひとつだ。
祠や石仏など神仏を思って作られたものは独特の気を纏っていることが多いから、その気に引っ張られてどこかからやってきてしまったのかもしれない。
「何がしたかったんだろうな」
高耶はまだ気になっていた。
───霊も人間です
霊の数だけ物語がある。
綾子が味方につきたくなるほど、必死に何かを訴えていた若者。
一体彼に何があったのだろうか。
死してなお伝えたい想い。
オレも死んだら美弥のところに化けて出たりするのだろうか、と考えてから、直江達に言わせれば自分も既に化けて出た身なのだと思い出した。
「あの」
「───っ!」
突如聞こえた知らない声に、慌てて振り返る。
そこには20代後半かと思われる、見知らぬ男女が立っていた。
売店などが入った施設の裏口から外に出ると、そこは小さな公園のようになっていて、花壇やベンチが置かれていた。
その敷地のはずれ、暗い外灯の灯りに照らされて、ぽつんと小さな祠(ほこら)があった。
学校の百葉箱を思わせる白塗りの祠は、まだそれほど古くはないようにみえる。
「ここか……」
高耶は昼間教わったやり方で、あたりの目には見えないものの気配を探った。
が、何も感じない。
「いねーじゃん」
直江を振り返ると、やはり、という顔をしている。
「もしかしてあなたなら、と思ったのですが……。私も先程霊査してみましたが、残留思念すら感じられませんでした。どうやら浄化してしまったようですね」
なんだよ、と高耶は本日二度目の残念顔になった。
「そうがっかりしないで下さい。自然に浄化出来たのならば、喜ばしいことです」
苦笑いで直江が諭すと、高耶はあきらめきれないといった感じで祠を眺めた。
「そーだけど」
高耶は知りたかったのだ。
一体どんな心残りがあったのか。
浄化出来たということは、想いを果たすことが出来たのだろうか。
満足してこの世を去っていったのだろうか。
おかしな話だが、置いていかれたような寂しい気持ちがした。
「ねーさんに報告してやんなきゃな」
そう言った高耶は、祠に打ち付けられた木の札の題目に目を留めた。
「梓川玉突き事故追悼小詞……?」
手書きらしい毛筆でそう書いてあった。
「5年程前の事故のことですね。かなり大きな事故で数名の方が亡くなったはずです。覚えてませんか?」
「知らねーな」
「現場はすぐそこだったんですよ。事故の原因となった車のドライバーだけが奇跡的に一命を取り留めたこともあって、マスコミにも大きく取り上げられていました」
本当に覚えてないのか、と疑う視線から、高耶は眼を逸らした。
「……5年前はちょうどゴタゴタしてた時期だから」
直江は、ああ、という顔をした。
高耶は嫌な話題を避けるように、話を続ける。
「じゃあ火傷の霊もその事故で?」
直江は小首をかしげた。
「どうでしょう。彼が現れ出したのは1年程前のことでしたから、また別の事故かもしれませんね」
ただでさえ高速道路の事故は死亡事故に繋がるような大きなものが多い。霊のうまれやすい場所のひとつだ。
祠や石仏など神仏を思って作られたものは独特の気を纏っていることが多いから、その気に引っ張られてどこかからやってきてしまったのかもしれない。
「何がしたかったんだろうな」
高耶はまだ気になっていた。
───霊も人間です
霊の数だけ物語がある。
綾子が味方につきたくなるほど、必死に何かを訴えていた若者。
一体彼に何があったのだろうか。
死してなお伝えたい想い。
オレも死んだら美弥のところに化けて出たりするのだろうか、と考えてから、直江達に言わせれば自分も既に化けて出た身なのだと思い出した。
「あの」
「───っ!」
突如聞こえた知らない声に、慌てて振り返る。
そこには20代後半かと思われる、見知らぬ男女が立っていた。
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かいこん ほこら
悔恨の小祠