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かいこん ほこら
悔恨の小祠
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 屋内に入ると、ほとんど人はおらずガランとしていた。
 空いている場所へ適当に腰掛ける。
 "ミッちゃん"はすぐには座らず、ポケットから名刺入れを取り出した。
「何かのご縁ですから」
 ちょっと古い言い回しで、白い名刺を一枚差し出してくる。
「田辺です」
 そこには「田辺道男」とあった。
 東京にある仏具店の営業となっている。
 直江も名刺を差し出した。
「橘です」
「これはすみません」
 肩書きをみた道男が驚いて顔をあげた。
「お坊様、ですか」
「ええ」
 橘不動産のものではなく、実家で作ったものを渡したようだ。
 まじまじと見あげてくる道男に、直江は微笑をかえした。
 確かにこれほど長身で派手な顔つきの僧侶は中々いないだろう。
「えっと……?」
 今度は高耶に顔を向けて、どんな関係かと言外に問うてくる。
 社会儀礼にのっとる大人たちを冷めた目で眺めていた高耶は口を開いた。一緒に直江も。
 こんなときに返す言葉はもう決まっている。
「従兄弟です」
 声を揃えて答えた二人に、はあ、と訝しげな視線を送りつつ、道男はやっと腰を下ろした。
「今日はおふたりで幽霊見物ですか?」
 その言葉に相手を責める響きはない。
 ただ単にその場の話題として持ち出した、という感じだ。
 彼らはここへ通っていると言っていたから、過去にも何度かこういうことはあったのかもしれない。
 直江はすぐには返事をせずに、傍らを見た。
 高耶はすかさず、まかせたとばかりに目配せを返す。
 怨霊《調伏》の一環で、などと答える訳にもいかないから、直江は適当に話を創った。
「私達も知人にここで霊をみた、と聞いてやってきたんです。仕事柄、そういうものと無縁ではないもので、何か自分達にも出来ることがないか、と」
 それを聞いた道男の顔つきが急に真剣になった。
 おそるおそる聞いてくる。
「じゃあ、やっぱり彼はいるんでしょうか?」
「いえ、私が見た限りでは霊障のようなものはなさそうでした」
「そうですか……」
 道男はほっとしたような落胆したような複雑な表情をした。
 そんな道男の心を読むように、高耶はじっと観察した。
 もし彼が火傷を負った霊のことを少しでも知っているなら、聞いてみたいと思った。
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かいこん ほこら
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