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かいこん ほこら
悔恨の小祠
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「祠だ……」
 高耶の言うとおりだった。
 十数メートル進んだところに畳三帖分程の空間が開いていて、真ん中にぽつんと祠があった。
 この湿気のせいか木は腐りきっていて、触れればぽろぽろとかけらが落ちてくる。
「なんだか血みたい」
 譲が祠の脚の部分を気持ち悪そうに見ている。
 何かの液体が凝り固まってへばりついていた。色は黒い。
「これ、あの祠と似てないか?」
 高耶は祠の周りをぐるりと巡ってから言った。
 確かに百葉箱のようなこの形はあのサービスエリアにあったものと似ている。
 だがその判別もつかない程にボロボロだ。
「断定はできませんが……」
「開けてみればわかるんじゃね?」
 中に木彫りの仏像があれば、同じ人物が作ったものかもしれない。
 高耶は壊れかけている祠の扉に手をかけた。
 が、
「待って!!」
 ふいに譲が大声を出した。
 高耶の元へ駆け寄って手を押さえようとするが、すで遅い。
 高耶の手によって扉は開かれてしまった後だった。
 祠の中の暗い闇の奥から、不穏な空気が漏れる───
 突如として、影のようなものが飛び出してきた……!!
「うわっ!」
 二人は同時に悲鳴をあげた。
 大きくて、黒く、暗い影……。
 ぶつかった!と思った瞬間、その影の感情が高耶の中に一気に流れ込んできた。
 頭の中で悲鳴のような想いが反響する。

───モウイヤダ……!
───コンナハズジャナカッタノニ……!
───ドウシテコンナコトニ……!


「景虎様!」
「成田!」
 小さな祠に入っていたとはとても思えない体積の影のようなものは、まるで投影された映像のようにそのまま高耶と譲の体を通り抜け、林の中へ数メートル程入って動きを止めた。
 走り寄った直江の腕に高耶が倒れこむ。
 譲のほうはかろうじて立ったまま千秋に支えられている。
「長秀、譲さんを!」
「わかってる!」
 頭を抱える高耶のもとへ駆け寄ろうとする譲を制しながら長秀は大きな影をにらみつけている。
「こいつ……っ!実体化していくぞ……っ」
 大きな影はむくむくと伸縮していた。そのうちに毛が生え出してくる。
 異様に痛む頭を押さえながら高耶が顔を上げると、ソレはもう影ではなく、二本足で立ち、茶色けた毛が生えた大きな獣の姿だった。
 大きい。3メートルはあるだろうか。
 太ったアライグマのような胴回りに手と足があり、耳まであった。
 ただ黒いだけの眼球が、千秋と譲を捕らえる。攻撃する気か。
「譲さん!こっちへ!」
 まだ立ち上がれずにいる高耶を抱えて、直江が叫ぶ。
 と、その時、獣の口から透明な水あめのようなかたまりが飛び出した。
「うげっ!」
「うわあっ!」
 そのかたまりともろにぶつかった千秋はしりもちをつき、譲も巻き添えをくって倒れこむ。
「何なんだこりゃあっっ!」
 ネバネバとしたその大量の液体がべっとりと二人の体にくっついた。
「き、気持ち悪い……」
 体中から垂れ落ちる液体はかなり臭う。
 吐き出された塊りの方はずるずるとひとりでに動き出していた。こっちに向かってくるかと思いきや、また獣の元へと還っていく。獣はそれを吸い込んだ。そしてその口で、にたぁ~っと笑った。
 千秋の表情が不意に切り替わる。
「ちいいっきしょぉ!!くせえんだよおぉ~~!!」
 ブチギレた千秋が力に任せて念を打ち込んだ。
 
 ギャアアンッ!!

 人の声とも獣の声ともつかない悲鳴をあげて、獣は更に林の奥へと移動をはじめる。
 その体は再び影のようなものに戻り始めていた。
 このままでは、木々の間の闇にまぎれてまた逃げられてしまう。
 千秋は後を追おうとしたが、
「長秀!譲さんをひとりにするな!」
 と直江に制され断念した。
「くそっ!!」
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