かいこん ほこら
悔恨の小祠
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
カーディガンにAラインスカートのぽっちゃりした女性と、少し色を抜いた短い髪に流行のタイプの眼鏡をかけた男性だ。
まったく気付かなかった。
直江も同様に、驚いた顔をしている。
「失礼ですけど、御遺族の方ですか」
話しかけてきた女性の手には白い花束が握られていた。
こんな時間、こんな場所へ来るのは、確かに遺族くらいなものかもしれない。
「ええ、まあ」
直江が返事を濁すと、女性は笑顔を浮かべて近づいてきた。
「私も1年程前に友人を事故で亡くしたんです。5年前のあの事故とは直接関係はないんですけど、現場がすぐ近くだったもので、よくこうして来させてもらってるんです」
高速道路じゃお花もお供えできないし、といって彼女は祠の前まで行くと、いつもそうしているのか慣れた手つきで扉を開けた。
中には、白木で彫られた仏像が置かれている。
細密とはいえないその丸みを帯びた造詣は、どこか素朴であたたかみがあった。
仏像というよりどこかしらの郷土神を思い起こさせる。
「遺族の方が造られたものです。ご存知ですか、町田さんって方」
仏像をしげしげと見つめる高耶を振り返って彼女は言った。
もちろん知らない高耶は首を振る。
「この祠も、実はその方のお手製なんですよ」
準備してきたらしいハサミで仏前花にしては華やかな花の茎を切りそろえると、先に供えられていた枯れ花と取り替えた。
「もしかして、1年前というと……」
呟くような直江の言葉で、高耶もはっと気付いた。
「火傷の霊の……?」
時期が重なる。彼女のいう友人とは、もしかして例の火傷の霊か?
火傷、という言葉を聞いて女性は過剰な反応を示した。
「もしかして、幽霊見物の方ですかッ……!」
「いや……あの、そうじゃなくって」
突然形相の変わった女性に、高耶は別に興味本位で来たのではないことを何とか説明しようと思ったが、それは彼女の言葉に遮られた。
「彼に、浩二に会ったんですかッ?!」
「え?」
「火傷をした幽霊と話をしたんですかッ?!」
彼女は不自然なほど必死だった。
「いや、オレは……」
「じゃ、じゃあ姿を見たりとか……?!」
「いや、それもないんだけど……」
「───そうですか……」
彼女はへたり込んでしまった。
「ル、ルミちゃん……」
ここへきて初めて言葉を発した男性は女性の元歩み寄った。
「やっぱり、もう会えないのかな……」
彼女はそう言うと顔を覆って泣き出してしまう。
男性は困った顔で励ますように背中を擦り始めた。
「まだわかんないよ。もうちょっとがんばってみようよ」
しばらくの沈黙の後、直江が聞いた。
「亡くなった御友人に会いにいらしたんですか?」
彼女はこくりと頷く。
「知り合いがここで彼に会ったって聞いて。わたし達、ずっと通ってるんです。でもまだ会えたことなくて………」
ぽろり、ぽろりと涙が落ちる。
「彼、火傷をしていたって……何かを必死に伝えようとしてたって……」
「ルミちゃん」
「心残りがあるってことだと思うんです。わたし、それが何なのかどうしても知りたくて……!」
とりあえず立ち上がろうと手を差し伸べる男性に、彼女はひとりになりたいと首を振った。
「ごめんね、ミッちゃん」
「───ん。わかった」
男性は手を引っ込めると、仕方なくといった感じで立ち上がる。
高耶と直江は顔を見合わせた。
とりあえず、"ルミちゃん"を残して、施設の方へ向かう"ミッちゃん"と一緒に移動することにした。
まったく気付かなかった。
直江も同様に、驚いた顔をしている。
「失礼ですけど、御遺族の方ですか」
話しかけてきた女性の手には白い花束が握られていた。
こんな時間、こんな場所へ来るのは、確かに遺族くらいなものかもしれない。
「ええ、まあ」
直江が返事を濁すと、女性は笑顔を浮かべて近づいてきた。
「私も1年程前に友人を事故で亡くしたんです。5年前のあの事故とは直接関係はないんですけど、現場がすぐ近くだったもので、よくこうして来させてもらってるんです」
高速道路じゃお花もお供えできないし、といって彼女は祠の前まで行くと、いつもそうしているのか慣れた手つきで扉を開けた。
中には、白木で彫られた仏像が置かれている。
細密とはいえないその丸みを帯びた造詣は、どこか素朴であたたかみがあった。
仏像というよりどこかしらの郷土神を思い起こさせる。
「遺族の方が造られたものです。ご存知ですか、町田さんって方」
仏像をしげしげと見つめる高耶を振り返って彼女は言った。
もちろん知らない高耶は首を振る。
「この祠も、実はその方のお手製なんですよ」
準備してきたらしいハサミで仏前花にしては華やかな花の茎を切りそろえると、先に供えられていた枯れ花と取り替えた。
「もしかして、1年前というと……」
呟くような直江の言葉で、高耶もはっと気付いた。
「火傷の霊の……?」
時期が重なる。彼女のいう友人とは、もしかして例の火傷の霊か?
火傷、という言葉を聞いて女性は過剰な反応を示した。
「もしかして、幽霊見物の方ですかッ……!」
「いや……あの、そうじゃなくって」
突然形相の変わった女性に、高耶は別に興味本位で来たのではないことを何とか説明しようと思ったが、それは彼女の言葉に遮られた。
「彼に、浩二に会ったんですかッ?!」
「え?」
「火傷をした幽霊と話をしたんですかッ?!」
彼女は不自然なほど必死だった。
「いや、オレは……」
「じゃ、じゃあ姿を見たりとか……?!」
「いや、それもないんだけど……」
「───そうですか……」
彼女はへたり込んでしまった。
「ル、ルミちゃん……」
ここへきて初めて言葉を発した男性は女性の元歩み寄った。
「やっぱり、もう会えないのかな……」
彼女はそう言うと顔を覆って泣き出してしまう。
男性は困った顔で励ますように背中を擦り始めた。
「まだわかんないよ。もうちょっとがんばってみようよ」
しばらくの沈黙の後、直江が聞いた。
「亡くなった御友人に会いにいらしたんですか?」
彼女はこくりと頷く。
「知り合いがここで彼に会ったって聞いて。わたし達、ずっと通ってるんです。でもまだ会えたことなくて………」
ぽろり、ぽろりと涙が落ちる。
「彼、火傷をしていたって……何かを必死に伝えようとしてたって……」
「ルミちゃん」
「心残りがあるってことだと思うんです。わたし、それが何なのかどうしても知りたくて……!」
とりあえず立ち上がろうと手を差し伸べる男性に、彼女はひとりになりたいと首を振った。
「ごめんね、ミッちゃん」
「───ん。わかった」
男性は手を引っ込めると、仕方なくといった感じで立ち上がる。
高耶と直江は顔を見合わせた。
とりあえず、"ルミちゃん"を残して、施設の方へ向かう"ミッちゃん"と一緒に移動することにした。
PR
屋内に入ると、ほとんど人はおらずガランとしていた。
空いている場所へ適当に腰掛ける。
"ミッちゃん"はすぐには座らず、ポケットから名刺入れを取り出した。
「何かのご縁ですから」
ちょっと古い言い回しで、白い名刺を一枚差し出してくる。
「田辺です」
そこには「田辺道男」とあった。
東京にある仏具店の営業となっている。
直江も名刺を差し出した。
「橘です」
「これはすみません」
肩書きをみた道男が驚いて顔をあげた。
「お坊様、ですか」
「ええ」
橘不動産のものではなく、実家で作ったものを渡したようだ。
まじまじと見あげてくる道男に、直江は微笑をかえした。
確かにこれほど長身で派手な顔つきの僧侶は中々いないだろう。
「えっと……?」
今度は高耶に顔を向けて、どんな関係かと言外に問うてくる。
社会儀礼にのっとる大人たちを冷めた目で眺めていた高耶は口を開いた。一緒に直江も。
こんなときに返す言葉はもう決まっている。
「従兄弟です」
声を揃えて答えた二人に、はあ、と訝しげな視線を送りつつ、道男はやっと腰を下ろした。
「今日はおふたりで幽霊見物ですか?」
その言葉に相手を責める響きはない。
ただ単にその場の話題として持ち出した、という感じだ。
彼らはここへ通っていると言っていたから、過去にも何度かこういうことはあったのかもしれない。
直江はすぐには返事をせずに、傍らを見た。
高耶はすかさず、まかせたとばかりに目配せを返す。
怨霊《調伏》の一環で、などと答える訳にもいかないから、直江は適当に話を創った。
「私達も知人にここで霊をみた、と聞いてやってきたんです。仕事柄、そういうものと無縁ではないもので、何か自分達にも出来ることがないか、と」
それを聞いた道男の顔つきが急に真剣になった。
おそるおそる聞いてくる。
「じゃあ、やっぱり彼はいるんでしょうか?」
「いえ、私が見た限りでは霊障のようなものはなさそうでした」
「そうですか……」
道男はほっとしたような落胆したような複雑な表情をした。
そんな道男の心を読むように、高耶はじっと観察した。
もし彼が火傷を負った霊のことを少しでも知っているなら、聞いてみたいと思った。
空いている場所へ適当に腰掛ける。
"ミッちゃん"はすぐには座らず、ポケットから名刺入れを取り出した。
「何かのご縁ですから」
ちょっと古い言い回しで、白い名刺を一枚差し出してくる。
「田辺です」
そこには「田辺道男」とあった。
東京にある仏具店の営業となっている。
直江も名刺を差し出した。
「橘です」
「これはすみません」
肩書きをみた道男が驚いて顔をあげた。
「お坊様、ですか」
「ええ」
橘不動産のものではなく、実家で作ったものを渡したようだ。
まじまじと見あげてくる道男に、直江は微笑をかえした。
確かにこれほど長身で派手な顔つきの僧侶は中々いないだろう。
「えっと……?」
今度は高耶に顔を向けて、どんな関係かと言外に問うてくる。
社会儀礼にのっとる大人たちを冷めた目で眺めていた高耶は口を開いた。一緒に直江も。
こんなときに返す言葉はもう決まっている。
「従兄弟です」
声を揃えて答えた二人に、はあ、と訝しげな視線を送りつつ、道男はやっと腰を下ろした。
「今日はおふたりで幽霊見物ですか?」
その言葉に相手を責める響きはない。
ただ単にその場の話題として持ち出した、という感じだ。
彼らはここへ通っていると言っていたから、過去にも何度かこういうことはあったのかもしれない。
直江はすぐには返事をせずに、傍らを見た。
高耶はすかさず、まかせたとばかりに目配せを返す。
怨霊《調伏》の一環で、などと答える訳にもいかないから、直江は適当に話を創った。
「私達も知人にここで霊をみた、と聞いてやってきたんです。仕事柄、そういうものと無縁ではないもので、何か自分達にも出来ることがないか、と」
それを聞いた道男の顔つきが急に真剣になった。
おそるおそる聞いてくる。
「じゃあ、やっぱり彼はいるんでしょうか?」
「いえ、私が見た限りでは霊障のようなものはなさそうでした」
「そうですか……」
道男はほっとしたような落胆したような複雑な表情をした。
そんな道男の心を読むように、高耶はじっと観察した。
もし彼が火傷を負った霊のことを少しでも知っているなら、聞いてみたいと思った。
「あんたも、浩二って人の知り合いだったのか」
道男は高耶の不躾な質問にも大して動じることなく、困ったような笑顔を返した。人の好い笑顔だ。
「実は……」
鋭い視線に促されるようにして、素直にいきさつを喋り始めた。
「小松浩二は、ルミちゃんの──井川留美子さんの婚約者だったんです。さっきは僕の手前、友人なんて言ってましたけど」
彼の話はこんな内容だった。
1年程前、浩二は玉突き事故の起きた場所のすぐそばで事故にあった。
乗用車で夜間走行中に、飲酒運転の大型車がスリップしたところに巻き込まれたのだという。
事故後すぐに車が炎上したため、浩二の遺体はかなり損傷が激しかったそうだ。
当時、留美子と浩二はすでに結婚を決めていて、再来月には式をあげる、というところまで話が進んでいた。
「ルミちゃんの家の近くに教会があって、彼女はそこで結婚式をするのが、小さい頃からの夢だったそうなんです。浩二は絶対に夢をかなえてやりたいって張り切ってて……」
二人とも多くはない給料から少しずつ貯金して、やっと挙式の目処がたった矢先の事故だった。
───約束したの、浩二と。あの教会で式を挙げるって
結婚を決めたばかりの頃、嬉しそうに話していた留美子の表情を、道男は今でも忘れられないという。
先ほど供えていた花も、春先に教会に咲くものと同じものだそうだ。
当の道男は、浩二とはふたりが付き合い始める前からの友人で、浩二の死後、彼女の傍にいるうちに好意を持つようになったのだという。
「もう気持ちは伝えてあるんですが、お付き合いまではオーケーもらえてなくて。でもルミちゃんも同じ気持ちでいるって言ってくれてるんです。だから浩二のことに決着がついたら、次は僕が夢をかなえてあげたいって思っていて」
浩二の分までね、と笑う道夫に嫉妬や自嘲の影はまったく見られない。
(いい奴だな)
心底、留美子のことが好きなのが伝わってくる。道男の眼には留美子はどれほど魅力的に映っているのだろうか。
「ただ、浩二はどう思ってるかわからない。もしかしてあいつ、オレのルミちゃんに対する気持ちを怒って成仏できないでいるのかもしれないです」
道男はため息をついた。
恋愛には決して聡いとはいえない高耶だったが、愛する人との結婚を目前にして死んだのならこの世に未練が残って当たり前だろうと思う。
ただ、ドライブがてらとはいえ毎回一緒にここへ来ているという道男の気持ちが、なんだかもどかしくて切ないと思った。
浩二を放って置けない留美子の気持ちもわかるが、当の浩二は消えてしまったのだ。
留美子は道男との幸せを考えるべきではないのかと思う。
まあ、そこらへんをうまく説明する自信は高耶にはないので、口にはしないが。
(浩二って人は一体何を伝えたかったんだろう)
それさえわかれば、留美子も新たな一歩を踏み出せるかもしれない。
もし何かを伝えたい相手というのが留美子だというのなら、なぜ想いを果たさずに浄化してしまったのだろうか。
知りたい気持ちがますます強くなってしまった。
道男は高耶の不躾な質問にも大して動じることなく、困ったような笑顔を返した。人の好い笑顔だ。
「実は……」
鋭い視線に促されるようにして、素直にいきさつを喋り始めた。
「小松浩二は、ルミちゃんの──井川留美子さんの婚約者だったんです。さっきは僕の手前、友人なんて言ってましたけど」
彼の話はこんな内容だった。
1年程前、浩二は玉突き事故の起きた場所のすぐそばで事故にあった。
乗用車で夜間走行中に、飲酒運転の大型車がスリップしたところに巻き込まれたのだという。
事故後すぐに車が炎上したため、浩二の遺体はかなり損傷が激しかったそうだ。
当時、留美子と浩二はすでに結婚を決めていて、再来月には式をあげる、というところまで話が進んでいた。
「ルミちゃんの家の近くに教会があって、彼女はそこで結婚式をするのが、小さい頃からの夢だったそうなんです。浩二は絶対に夢をかなえてやりたいって張り切ってて……」
二人とも多くはない給料から少しずつ貯金して、やっと挙式の目処がたった矢先の事故だった。
───約束したの、浩二と。あの教会で式を挙げるって
結婚を決めたばかりの頃、嬉しそうに話していた留美子の表情を、道男は今でも忘れられないという。
先ほど供えていた花も、春先に教会に咲くものと同じものだそうだ。
当の道男は、浩二とはふたりが付き合い始める前からの友人で、浩二の死後、彼女の傍にいるうちに好意を持つようになったのだという。
「もう気持ちは伝えてあるんですが、お付き合いまではオーケーもらえてなくて。でもルミちゃんも同じ気持ちでいるって言ってくれてるんです。だから浩二のことに決着がついたら、次は僕が夢をかなえてあげたいって思っていて」
浩二の分までね、と笑う道夫に嫉妬や自嘲の影はまったく見られない。
(いい奴だな)
心底、留美子のことが好きなのが伝わってくる。道男の眼には留美子はどれほど魅力的に映っているのだろうか。
「ただ、浩二はどう思ってるかわからない。もしかしてあいつ、オレのルミちゃんに対する気持ちを怒って成仏できないでいるのかもしれないです」
道男はため息をついた。
恋愛には決して聡いとはいえない高耶だったが、愛する人との結婚を目前にして死んだのならこの世に未練が残って当たり前だろうと思う。
ただ、ドライブがてらとはいえ毎回一緒にここへ来ているという道男の気持ちが、なんだかもどかしくて切ないと思った。
浩二を放って置けない留美子の気持ちもわかるが、当の浩二は消えてしまったのだ。
留美子は道男との幸せを考えるべきではないのかと思う。
まあ、そこらへんをうまく説明する自信は高耶にはないので、口にはしないが。
(浩二って人は一体何を伝えたかったんだろう)
それさえわかれば、留美子も新たな一歩を踏み出せるかもしれない。
もし何かを伝えたい相手というのが留美子だというのなら、なぜ想いを果たさずに浄化してしまったのだろうか。
知りたい気持ちがますます強くなってしまった。
考え込む高耶の横で、直江と道男はなにやら仏具やら葬儀の話で盛り上がっていた。
直江もなんだかんだで普段は真面目に家業に取り組んでいる様子が窺える。
そうこうしているうちに留美子の姿が裏口に現れた。
「ミッちゃん、ごめんね」
駆け寄ってきた留美子は、直江と高耶に対してもぺこりとおじぎをした。
「いいんだよ、落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、帰ろっか」
ふたりは直江たちの方を向いた。
「なんだかお騒がせしてしまって」
「いえ、気になさらないでください」
「ほんとにすみませんでした」
留美子と道男はもう一度頭を下げるとそのまま駐車場へと向かっていった。
仲のよさそうな会話が聞こえてくる。
「帰りはミッちゃんの好きな曲かけようよ」
「え、いいよいいよ、ルミちゃんの好きなのにしなよ」
残された二人は顔を見合わせた。
「仲いいじゃん。あれなら夢がかなうのも近いんじゃねえの」
「そうだといいですね」
柔らかい視線を送る直江の横で、でもさ、と高耶は口を尖らせた。
「すげー美人ってわけじゃあねーんだけどなあ」
「???」
留美子の方を見て言っている。
直江には高耶が何を言いたいのかわからなかった。
「だからぁ、男ふたりを虜にするようには見えないってゆーか」
つまり、高耶はそれほど留美子に魅力を感じないということだろうか。
まぁ、顔立ちは地味なほうかもしれないし、ナイスバディともいえないだろうが、彼女の女性らしい雰囲気を好む男性は少なくないだろうと直江は思う。
高耶にはそこら辺の魅力はまだわからないのだろうか。というより。
「……高耶さんは面食いなんですね」
「ちげーって。そーゆーことじゃねーよ」
即効で否定した後に、高耶は真顔で言い放った。
「ほら、誰しも恋人にしか見せない一面があるっていうからさ。俺らにはわかんねぇ魅力があんだろーなって」
柄にもない大人ぶった言葉を聞いた直江は小さく吹き出した。
「なんだよ」
ふくれる高耶の顔をからかうように覗き込む。
「あなたにもそんな一面があるんですか」
「知らねーよ。つーか、あんたなんかそんな一面がいくつもあんだろ」
「見たいですか」
「みたくねーよ、そんなもんっ!」
ついさっきまで震えていたことなどすっかり忘れて元気に声を張り上げる高耶を、直江は笑って車へと促した。
直江もなんだかんだで普段は真面目に家業に取り組んでいる様子が窺える。
そうこうしているうちに留美子の姿が裏口に現れた。
「ミッちゃん、ごめんね」
駆け寄ってきた留美子は、直江と高耶に対してもぺこりとおじぎをした。
「いいんだよ、落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、帰ろっか」
ふたりは直江たちの方を向いた。
「なんだかお騒がせしてしまって」
「いえ、気になさらないでください」
「ほんとにすみませんでした」
留美子と道男はもう一度頭を下げるとそのまま駐車場へと向かっていった。
仲のよさそうな会話が聞こえてくる。
「帰りはミッちゃんの好きな曲かけようよ」
「え、いいよいいよ、ルミちゃんの好きなのにしなよ」
残された二人は顔を見合わせた。
「仲いいじゃん。あれなら夢がかなうのも近いんじゃねえの」
「そうだといいですね」
柔らかい視線を送る直江の横で、でもさ、と高耶は口を尖らせた。
「すげー美人ってわけじゃあねーんだけどなあ」
「???」
留美子の方を見て言っている。
直江には高耶が何を言いたいのかわからなかった。
「だからぁ、男ふたりを虜にするようには見えないってゆーか」
つまり、高耶はそれほど留美子に魅力を感じないということだろうか。
まぁ、顔立ちは地味なほうかもしれないし、ナイスバディともいえないだろうが、彼女の女性らしい雰囲気を好む男性は少なくないだろうと直江は思う。
高耶にはそこら辺の魅力はまだわからないのだろうか。というより。
「……高耶さんは面食いなんですね」
「ちげーって。そーゆーことじゃねーよ」
即効で否定した後に、高耶は真顔で言い放った。
「ほら、誰しも恋人にしか見せない一面があるっていうからさ。俺らにはわかんねぇ魅力があんだろーなって」
柄にもない大人ぶった言葉を聞いた直江は小さく吹き出した。
「なんだよ」
ふくれる高耶の顔をからかうように覗き込む。
「あなたにもそんな一面があるんですか」
「知らねーよ。つーか、あんたなんかそんな一面がいくつもあんだろ」
「見たいですか」
「みたくねーよ、そんなもんっ!」
ついさっきまで震えていたことなどすっかり忘れて元気に声を張り上げる高耶を、直江は笑って車へと促した。
かいこん ほこら
悔恨の小祠